研究課題/領域番号 |
15K18967
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中島 則行 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80625468)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | OMP / 神経活動 / HCNチャネル |
研究実績の概要 |
OMPは、嗅細胞の特異マーカーとして組織学から遺伝学まで一般的に利用されているにもかかわらず、その生理学的な役割は全く不明である。OMPノックアウト(KO)マウスを用いた実験で、CNGチャネルが閉じにくくなるなど、cAMPとの関連を示唆する所見が散見される。刺激に応じて産生されたcAMPに対して、OMPはどのような制御をしめすのかを明らかにした。具体的には、cAMP濃度依存的に素早く開くCNGチャネルを培養細胞に発現させ、同時にパッチクランプすることでcAMP感受性センサーとして用いて電流を計測した。この培養細胞にCNGチャネルとOMPを共発現させ、光感受性・膜透過型ケージドcAMPを投与し、細胞に焦点を絞ったUV照射によりcAMPを拡散させ、電位固定パッチクランプ法により、CNGチャネル応答電流の変化として計測した。CNGチャネル電流は、OMPの非存在下においては、緩やかに活性化し、一定レベルで定常状態を示す。OMPの野生型の存在下ではCNG電流は速やかに脱感作されるが、OMPの変異体が存在していると脱感作は見られなかった。さらに生理的な条件を検討するために、アドレナリン受容体を共発現させて、外部から受容体刺激を試みた。その結果も同様に、OMPの野生型はCNG電流を脱感作させ、OMPの変異型はCNG電流に大きな影響を与えなかった。免疫組織学を用いた実験により、OMPは、脳の広い部分に存在することが分かってきている。これらの結果をもとに、OMPノックアウトマウスを用いて脳の各部位におけるOMPの生理的な機能の解明を引き続きめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
この培養細胞に光感受性・膜透過型ケージドcAMPを投与し、細胞に焦点を絞ったUV照射によりcAMPを拡散させる。電位固定パッチクランプ法により、CNGチャネル応答電流の変化として計測した。その結果、OMPの野生型の存在下ではCNG電流は速やかに脱感作される。そこで、OMPの主要活性部位に2アミノ酸の変異を導入した。2アミノ酸変異型OMPが存在していると、脱感作の時定数は不安定となった。さらに3アミノ酸変異体が存在していると、脱感さがほとんど見られなくなった。またGタンパク共役受容体(GPCR)のシグナルカスケードの影響を検討した。そのために、GPCRのひとつアドレナリンβ1 受容体遺伝子をHEK293T細胞に共発現し、外部からY管を使ったイソプロテレノールの瞬間投与を行った。その結果、OMPの野生型の存在下ではCNG電流は速やかに脱感作されるが、OMPの3アミノ酸変異体が存在していると脱感作は見られなかった。OMPの変異体が正常に細胞質に発現されているかどうか検討するために、OMP(野生型、変異体)をHEK293T細胞に発現させ、蛍光免疫染色法によりいずれも細胞質に発現することを確認した。さらに、OMPのC末端側にGFPのタグをつけ、HEK293T細胞に発現させ、いずれも細胞質に発現することを確認した。OMP変異体は、細胞質シグナル伝達系における何らかの作用によりCNG電流に作用したと考えられた。次に、免疫組織学を用いた実験によりOMPの発現部位を同定した。従来より知られる嗅覚神経細胞のほかに、味覚細胞、聴覚コルチ器など、他の感覚上皮細胞にも発現がみられ、脳内でも間脳や中脳水道の付近など、深部にもOMP発現細胞が点在していることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
OMP発現細胞におけるOMPの生理的機能を解明するために、OMP遺伝子座を蛍光タンパクGFPで置換したノックアウト(KO)マウスを利用する(ジャクソン研究所から購入予定:JAX006667)。ヘテロKOマウスは野生アレルからのOMPを正常に発現しつつKOアレルからはGFPを発現する。ホモKOマウスでは完全にOMP機能を失っても成熟・繁殖は可能であることが知られており、やはりKOアレルからGFPが発現することで特定の 神経細胞を可視化できる(下図A:ヘテロ/ホモOMP-KOマウス)。OMPを発現する代表的な神経細胞である嗅覚神経細胞は、CNGチャネルとともに、cAMP依存的HCNチャネルも発現している。以前、我々はHCN4遺伝子の発現を制御できる遺伝子改変マウスを以前に開発した(Nakashima et al., 2013, J.Physiol., 1749-1769)。このマウスは、普段はHCN4プロモータ制御下にテトラサイクリン結合タンパク (tTA)が発現し、直ぐ下流のtTA応答配列(TRE-CMVプロモータ)に結合することでHCN4を強く発現する。この2系統のマウスを利用し、OMPの存在とHCNチャネルの過剰発現により、神経細胞の自発発火特性、匂い応答特性がどのように変化するか、検討する。具体的には、これらのマウスを交配させて得た個体から嗅細胞を含むスライス標本を作製し、1)HCN4チャネル発現量の 増減、そしてOMPの有無が、嗅細胞の自発発火頻度にどのような影響を与えるのかを電気生理学的に明らかにする(下図B)。さらに2)ケージド化合物を用いてUV刺激することで、cAMP濃度上昇に応じて神経発火がどのように変化するかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、研究資材の移動などのために遺伝子改変マウスの購入を先送りにした。そのため、初年度に購入予定であった遺伝子改変マウスの費用、およびその維持費用などが、予定使用額との差額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は既に一部の遺伝子改変マウスをRIKENから購入する手続きを終了しているため、前年度分の科研費を使用する。また次年度予算とあわせて、動物実験用機材を購入予定である。
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