研究課題
本研究ではeEF1BδL欠損マウス(以下δL欠損マウス)で音刺激により誘発される痙攣発作の分子病態の解明を目的として研究を進めた。研究計画の最終年度である平成28年度では以下の成果が得られた。1)δL欠損マウスは雌雄ともに正常な生殖能力を有することが分かった。eEF1BδLは主に脳と精巣に発現するが、受精能力に異常はないことから本タンパク質の機能は脳に限局していると思われた。2)eEF1BδLをコードする遺伝子Eef1dにはスプライシング調節因子Novaの認識配列が多数存在し、Novaの阻害はeEF1BδLの発現量を減少させたことから、Novaがスプライシングを制御することが分かった。3)δL欠損マウスの脳重量が野生型のマウスに比べて減少していた。さらに詳細に解析したところ、大脳皮質層の縮小および海馬の萎縮が認められた。この部位での萎縮が痙攣発作後の自発運動量の低下を招いている可能性がある。さらに2年間の補助事業期間全体を通じて得られた成果を以下にまとめる。eEF1BδLはNovaによる選択的スプライシングで組織における発現量が調節される。δL欠損マウスの脳ではてんかん原因遺伝子であるCacna1a(Ca2+チャネル)遺伝子が減少していることから、音刺激に対して容易に痙攣発作を誘発する可能性がある。また音刺激を含む恐怖条件付け実験を経た野生型マウスの脳で熱ショックタンパク質(Hsp)の誘導が起こるが、δL欠損マウスでは起こらないことから、eEF1BδLは外部からのストレスに応答してHspを誘導する働きがある。Hspは細胞をストレスから保護する役割があるため、δL欠損マウスではその保護作用が失活し、脳の萎縮を招いている可能性が示唆された。以上の成果はδL欠損マウスでの痙攣発作の分子メカニズムに迫るものであり、てんかんの分子病態を解明する上でも重要な知見となりうる。
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