研究実績の概要 |
交感神経βアドレナリン受容体(β-AR)シグナルの過剰な活性化は心房細動(Atrial Fibrillation: AF)や心室性不整脈の重要な原因の一つであると考えられている。交感神経系の過剰亢進を誘因とする不整脈や心不全の治療におけるβ-ARアンタゴニスト(β遮断薬)の有効性は確立されているが、β遮断薬投与による心機能抑制や肺機能抑制などの副作用が問題となる。アデニル酸シクラーゼ(AC)およびcAMP標的分子Epac1はβ-ARシグナル伝達経路の下流で機能する主要な構成因子である。本研究では、心臓型ACサブタイプおよびEpac1の不整脈発症における役割を解明し、その機能制御による不整脈治療の可能性をβ遮断薬と比較検討する。これにより、両分子がβ遮断薬よりも副作用が少ない安全な不整脈治療を確立するための新たな標的として有用であることを明らかにする。 本年度は、マウスに持続時間10分程度のAFを誘発する実験系を開発した成果を論文として発表した(PLOS ONE, 10, e0133664, 2015)。また、本AFモデル実験系およびCalsequestrin 2遺伝子ノックアウト(Casq2KO)マウスを用いた既報の心室性不整脈モデル実験系により、我々が心臓型ACサブタイプの阻害剤として見出したビダラビン(抗ヘルペス剤)の不整脈抑制効果を解析した。また、ビダラビンの心機能への影響を心エコー検査および心臓カテーテル検査により詳細に検討した。 ビダラビンはβ遮断薬の一種であるメトプロロールと同様、マウスに誘発したAFおよび心室性不整脈を抑制した。メトプロロール投与群と異なり、ビダラビン投与群では心機能(心拍数、左室駆出率、dP/dT maxおよびdP/dT min)の低下が認められなかった。
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