研究課題/領域番号 |
15K18975
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
金 美花 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (40746773)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 心不全 / 心肥大 / NHE1 / Ca2+シグナル / ベータ遮断薬 / CHP3 |
研究実績の概要 |
高血圧などの力学的負荷によって、心臓ではポンプ機能を増強させる適応現象として病的心肥大が起こるが、その適応が破綻すると心不全に陥る。様々な遺伝子発現変化を伴うこの心筋リモデリングの過程で、細胞内Ca2+シグナルが重要である。しかし、Ca2+過負荷に端を発した心肥大から如何にして心不全に至るかはよくわかっていない。本研究では、Na+/H+交換輸送体(NHE1)の活性化変異体を心臓特異的に発現し、細胞内Ca2+濃度が持続的に高く、著明な心肥大・心不全を発症するトランスジェニックマウスを用いて、まず第一に臨床的にも広く使われるべータ受容体遮断薬(カルベジロール)の投与群非投与群と比較し、べータ受容体遮断薬投与により心不全病態の改善が起こるかどうかを検討した。 NHE1-Tgマウスの心臓は20日齢から有意な心筋細胞の肥大を示し、心筋細胞の壊死・脱落それに伴う線維化など拡張型心筋症様の形態を呈すことから、20日齢のNHE1-Tgマウスを用いて、カルベジロールを5週間経口投与し、その有効性を検討した。心エコーならびに心カテーテルによる心機能評価によりカルベジロールを5週間経投与した群では心機能を改善と死亡率を改善する傾向が見られたが、改善効果を確認するにはさらなる実験が必要である。NHE1-Tgマウスを用いた薬理実験は数多くのマウスを用いる必要があるが、後述するようにNHE1-Tgマウスを交配によって数多く準備することが極めて難しく、短期間で研究を進めることは極めて困難であることがわかった。そこで、NHE1-Tgマウスの研究のかたわら、心筋リモデリングに関与することが濃厚なCHP3という遺伝子の欠損マウスの解析を並行して進めることを決断し、平成27年度中にCHP3のノックアウト(KO)マウスの作製し終えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
NHE1-Tgマウスは著しい心不全のために、NHE1-Tgのホモマウス同士の交配では繁殖が困難である。そこで、NHE1-Tgの雄と野生型(WT)の♀を交配させて、ヘテロTgマウスを実験に用いることにしている。そのために4分の1という低確率でしかTgマウスが得られないことに加えて、NHE1-Tgマウスは20日目から死亡したり、妊娠しても胎児死があったりして、薬理実験に使える同じ週齢のマウスの数をたくさん揃えるのがとても難しい現状である。従って、申請時の計画を期間内に終わらせることが大変困難であり、本研究の方針を変更する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
上述した理由によって、NHE1-Tgマウスを用いた大規模な薬理実験を行うことはかなり困難であることが判明した。そこで、NHE1-Tgマウスの繁殖を継続するかたわら、NHE1とも密接な関連があるCHP3のKOマウスを用いた実験をメインに行うことに方針転換する。NHE1のC-末端領域は活性の調節に重要な役割を果たしているが、これには様々なタンパク質が関与していることが知られている。その一つにCa2+結合蛋白質であるカルシニュリンB様蛋白質(CHP)があり、三つのアイソフォームが知られている。CHP1 はヒトの組織に広く発現し、CHP2はガン細胞に、CHP3は主に心臓に発現している。しかし、CHP3は心臓特異的に発現しているがその機能は不明である。我々はCHP3の欠損マウス作製したところ、このマウスの繁殖は順調であり、NHE1-Tgマウスの繁殖を行う間に、まずCHP3欠損マウスを用いて心不全におけるCHP3 の役割を解析したい。 新生仔ラット培養心筋細胞において、CHP3はAkt-GSK3β シグナルを活性化することで心肥大形成を抑制することが報告された(JMCC,2015)。私達は、平成27年度にすでに生後2-28週齢のCHP3欠損マウスで解析を行い、CHP3欠損マウスの心機能、心肥大はコントロールマウスとほぼ変わらないことが判明した。しかし興味深いことに、慢性カテコラミン刺激よる心不全モデルの解析ではCHP3欠損マウスで心肥大を抑制していることを確認した。平成28年度以降は、CHP3欠損マウスを用いて、さまざまな慢性負荷実験を行い、心エコーや心カテによる心機能測定とさまざまな遺伝子の発現や蛋白質リン酸化などを検討することによって、CHP3の心臓における機能と病態的意義を明らかにすることをめざしたい。また、繁殖が順調であれば、NHE1-Tgマウスを用いた薬理実験も継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、私個人的に第2子を出産したために、数カ月現場を離れなければならなかった。そのため、科研費の使用が途絶える期間があったことに加えて、子育てのために予定していた学会には参加できなかった(ポスター発表は共著者が行った)。17万円ほどの未使用分は平成28年度に使用することにしたい。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の未使用分は平成28年度の予算に上乗せしたうえで、心機能や蛋白質解析用の消耗品、学会への旅費に充てたい。特に平成28年度は、高輝度放射光X線イメージングなどの手法を用いた解析も予定しており、平成27年度以上の予算が必要であることが予想される。
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