研究課題
「撫でる」などの親和的な接触刺激は他者との親和的な関係性の構築を促進し、不安行動を減少させ、社会行動を促進させると考えられる。しかし、その背景になる神経メカニズムについては明らかになっていない。そこで、ラットを用いた実験により、撫でる接触刺激が個体の情動や社会行動に及ぼす影響とその神経メカニズムについて調査した。接触刺激を与えることで実験者に馴化したラットは不安行動が減少し、また、接触刺激を快刺激として嗜好するようになることを複数の行動テストバッテリーにより明らかにした。また、ラットの超音波発声は情動状態を反映する重要な指標になり得ることが報告されており、接触時におけるラット超音波の録音と解析を行った。その結果、接触刺激を与えた時にのみ快情動の指標となり得る50 kHz超音波をラットが発声すること、超音波を構成するシラブルが複雑化することが明らかになった。さらに、接触刺激により視床下部室傍核尾側領域のオキシトシン産生細胞が活性化することを明らかにした。このことより、視床下部室傍核尾側領域のオキシトシン産生細胞が不安の減弱や接触刺激に対する快情動の生起を制御している可能性が見出された。本研究成果の一部はNeuroscience Letters誌に発表した。また、第42回日本神経内分泌学会, 第23回日本行動神経内分泌研究会合同学術集会及び科研費新学術領域研究「共感性の進化・神経基盤」第3回領域会議にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
今年度の大きな目標は接触刺激を与えたラットの情動を行動・神経レベルで測定可能な実験系の確立であった。そこで、接触刺激への反応性や不安行動を測定する複数の行動テストを組み合わせ、バッテリー化した実験系の構築を試みた。この行動テストバッテリーを用いた結果、実験者に馴化したラットは撫でるという接触刺激に対して、快情動を生起するとともに、不安行動が減少し、接触刺激を嗜好するようになることを明らかにすることができた。また、ラット超音波の安定的な測定・解析には高性能の超音波マイクや解析装置が必要になるが、これら機器の開発と導入、及び超音波の解析方法を確立することができた。これら実験系は現在取り組んでいる、接触刺激による情動生起及び社会行動促進の背景にある神経メカニズムを調査する上で重要な基礎になる。初年度にこれら実験系を確立できたことで、今後の研究をさらに発展させる上での基盤を構築できたと言える。
複数個体の超音波発声をモニターできるシステムの開発と導入を進め、円滑なシステム運用を試みる。これにより、実験進捗スピードを加速させる。また、接触刺激を与えることで活性化する視床下部室傍核尾側領域のオキシトシン産生細胞を破壊することで不安行動の減少や快情動の生起が阻害されるか確認する。これにより、オキシトシン産生細胞の機能を同定する。さらに、同定したオキシトシン産生細胞を基軸とする機能的神経ネットワークの同定を試みる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Molecular Psychiatry
巻: - ページ: 1-7
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