「撫でる」といった親和的な接触刺激は不安行動を減少させ、他者との親和的な関係性の構築や社会行動の発現を促進させると考えられる。しかし、その背景にある神経メカニズムについては明らかになっていない。そこで、ラットを用いた実験により、撫でる接触刺激が個体の社会行動に及ぼす影響とその神経メカニズムについて明らかにすることを本研究課題の目的とした。
これまでの研究により、長期間撫で刺激を与えることで、①ラットの不安行動が減少し、撫で刺激を快刺激として嗜好するようになること、②撫でることにより快刺激の指標となる50 kHz帯域の超音波をラットが発声すること、③撫で刺激により視床下部室傍核尾側領域のオキシトシン産生細胞が活性化すること、④自分が撫でられない状況下で他個体が撫でられている時に不快情動の指標となる22 kHz帯域の超音波を発声すること、⑤これらの反応には雌雄差があり、メスラットでより顕著であること、⑥視床下部室傍核尾側領域のオキシトシン産生細胞が帯状回皮質や運動野を含む皮質領域、視床下部に多くの軸索を伸ばしていること、⑦撫で刺激によりこれら領域が活性化すること、が主に明らかになった。
上記結果から、オキシトシンが撫で刺激による親和的な関係性の構築・維持、および社会行動の促進に寄与している候補因子であることが示唆された。本年度はオキシトシンアンタゴニストの投与実験を行なった。その結果、オキシトシンアンタゴニストの末梢投与はラットの特定のヒトに対する嗜好性に影響を及ぼさないことが明らかになった。
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