研究課題
概日時計とは、約24時間のリズム性をもった生理機構であり、睡眠・覚醒、ホルモン分泌、体温変動など、様々な機能を制御することで、恒常性維持に重要な役割を担っている。近年、次世代シークエンサーの登場により、腸内細菌叢の持つ概日リズム現象に注目が集まっている。特に、腸内細菌叢の構成に概日リズム性が見られることが最近報告されている。また、腸内細菌が、宿主の生理機能や病態変化に大きな影響を与えていることも分かってきた。そこで本研究の目的は、マウスを用いて、腸内細菌叢が代謝・産生する短鎖脂肪酸に着目し、宿主の概日時計に与える影響を解明することとした。まず、抗生物質水投与による腸内細菌削減マウスを用いて、短鎖脂肪酸の経口投与を行った。その結果、明期半ばの短鎖脂肪酸投与は、末梢臓器(腎臓など)の時計遺伝子発現リズムの位相を前進させた。その他の時刻での投与は大きな影響がなかった。また、短鎖脂肪酸の中でも酢酸、乳酸が、より概日時計の位相変化に寄与していることが分かった。これらの応答は、培養細胞における短鎖脂肪酸の培地投与でも認められたが、位相変動はそれほど大きくなかった。次に、盲腸内における短鎖脂肪酸を測定した結果、活動期の始めに産生量が増える日内変動が認められ、それに応答して盲腸内のPHにも日内変動が見られた。さらに、短鎖脂肪酸の産生を促す、水溶性の食物繊維を含む餌を用いて、食餌による末梢時計の応答を評価した。その結果、食物繊維を含む餌による末梢時計の食餌応答は、食物繊維を含まない食餌に比べて、より位相変動が大きいことが分かった。よって本研究では、短鎖脂肪酸を介した腸内細菌の宿主の概日時計への影響を初めて示したと共に、プレバイオティクスによる体内時計の効果的な操作を開発することに成功した。
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