研究課題
我々はこれまでにマウス絶食―再摂食モデルにおいて、絶食時に大腸上皮細胞回転が停止する一方、再摂食時には一過性亢進が起こり、この現象が食物繊維を代謝して産生された乳酸に依存すること、大腸上皮細胞への発癌物質の暴露タイミングと摂食を協調操作することで、発癌のコントロールが出来ることを見出してきた。そこでこの知見に基づき、摂食を操作することで大腸の炎症が抑制できないかどうかの検討を行った。5週齡の雄C57BL/6Jマウスにデキストラン硫酸(DSS)で大腸炎を作成し、絶食―再摂食させて炎症の回復過程を検証したところ、絶食―再摂食群は非絶食群と比べて体重、陰窩数ともに回復が早く、非繊維食(経口補水塩:ORS)で再摂食させても回復は遅延した。同様に絶食―再摂食群は非絶食群と比べて大腸組織中の炎症性サイトカイン(IL-1b, IL-17)発現が有意に抑制されたが、ORS再摂食群では抑制されなかった。この結果は絶食と栄養シグナルに加え、腸内細菌由来の食物繊維が腸炎からの回復に必要であることを示唆している。これまでの知見から、この系においても乳酸が関与している可能性が高いと考えた我々は、腸炎からの回復が遅延するORS再摂食群に乳酸を含む有機酸を注腸して加えたところ、乳酸、酪酸を加えた群で腸炎からの回復が促進された。また通常食での再摂食群では、T-RFLP解析で腸内細菌叢を調べると、乳酸菌の比率が増加しており、大腸内容物の有機酸分析でも乳酸の濃度が上昇していた。以上より我々のこれまでの知見と同様に、大腸炎モデルにおいても、絶食―再摂食することで大腸内で増殖する乳酸菌由来の乳酸が、炎症からの回復過程に重要な役割を担っていることが示された。このことは摂食を操作することで大腸炎からの治癒を促進できることを示唆している。
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Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition
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