研究実績の概要 |
本研究の目的は、夜型指向性にみられる気分状態低下の基盤としての概日リズム位相角差の存在を検証するとともに、位相角差に対するストレス反応の関与を隔離実験による精密評価によって明らかにすることである。本年度は、位相角差の指標であるsocial jet-lag(社会的ジェットラグ)の程度が、夜型指向性にみられる気分状態低下の検証を行った。社会的ジェットラグとは、社会的な時間と生物時計の不一致によって生ずる短期的な時差状態である。 調査対象者は20~39歳の健常成人男女450名であり、クロノタイプ(MEQ、MCTQ)、睡眠習慣(PSQI)、精神健康度(K6)を実施した。 MCTQでの遅いクロノタイプは中間的クロノタイプに比べ、従来の報告どおり調整なしのモデルにおいて低い精神健康度の有意なリスクとなった(Odd Ratio(OR)=3.1, 95% CI:1.7-5.8)。この関係は、年齢、性別、肥満度(BMI)、平均睡眠時間、睡眠状態を調整したモデルにおいても維持されたが、社会的ジェットラグを投入したモデルで有意でなくなった。一方、1-2hの社会的ジェットラグをもつ群は0-1hの社会的ジェットラグをもつ群に対して、低い精神健康度の有意なリスク(OR=2.0、1.1-4.0)となった。MEQでの夜型は中間型に比べ、調整なしで低い精神健康度の有意なリスク(OR=2.5, 1.2-5.1)であり、社会的ジェットラグを調整しても維持された(OR=2.2, 1.0-5.0)。このモデルでは社会的ジェットラグ(1-2h)も独立したリスク因子となった(OR=2.1, 1.1-4.1)。 本研究の結果から、MCTQでの遅いクロノタイプにみられる気分状態の低下は社会的ジェットラグによって媒介され、MEQにみられる夜型での気分状態低下は社会的ジェットラグとは独立していることが明らかとなった。
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