研究課題/領域番号 |
15K18985
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
梅原 隼人 新潟大学, 医歯学系, 助教 (20610182)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニューロペプチドY / Y1受容体 / 条件給餌 / 摂餌予知行動 / ヒスタミン神経系 |
研究実績の概要 |
規則的摂食リズムの維持は健康にとって重要であるが、食餌性リズムを生み出す仕組みは明らかとなっていない。本研究では、摂食行動の調節において重要な役割を果たしているニューロペプチドY(NPY)に着目し、食餌性リズム形成とそれに付随する摂食行動の制御機構を研究している。 げっ歯類は一日一回一定時間だけの条件給餌を行うと、給餌時刻に先だち顕著な運動活性の増加と食餌探索行動を特徴とする摂餌予知行動 (FAA) を示すようになる。筆者はこの行動に摂食亢進性のNPY Y1受容体(Y1R)シグナルが関与しているのではないかと考えた。そこでまず、野生型及びY1R遺伝子欠損マウスに対して一日一回4時間(12時から16時)の条件給餌を2週間行い、その間のFAA及び各種摂食関連行動の解析を行った。その結果、野生型マウスに比べ、Y1R遺伝子欠損マウスにおいて、条件給餌に伴うFAA発現が減少した。また、Y1R遺伝子欠損マウスでは野生型マウスに比べ、摂食量及び摂食持続時間の減少と給餌に対する反応性(摂食意欲)の低下傾向が見られ、食餌性リズムへの適応障害が見られた。これらの結果から、Y1RがFAAの発現や、食餌性リズム形成機構に関与していることが示唆された。 一方、ヒスタミン神経系もFAAの発現や食餌性リズム形成への関与が示唆されており、NPY神経系がヒスタミン神経系を調節することによりこれらの機能に関与するのではないかと考えた。そこで、まず免疫組織化学染色法を用いてNPYのヒスタミン神経系への投射とヒスタミン神経が局在する結節乳頭核(TMN)の亜核群におけるY1Rの発現について調べたところ、NPY神経がヒスタミン神経系へと投射していることが明らかとなった。ヒスタミン神経系におけるY1Rの発現については抗体の特異性の問題があり、現在条件検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初はTMN亜核群におけるY1Rの発現についても、HDCとY1Rとの蛍光二重染色法により明らかにする予定であったが、ヤギ血清由来の抗HDC抗体と羊血清由来の抗Y1R抗体との間の交差反応が強く見られ、これらの抗体による二重染色を諦めた。また市販のウサギ由来の抗Y1R抗体も試みたが特異染色が得られなかった。そこで現在は羊抗Y1R抗体とモルモット抗HDC抗体とを用いた蛍光二重染色を検討中である。またNPYあるいはNPY受容体アゴニストの投与によるTMNのY1R/HDC発現細胞での p-CREB あるいは c-Fos 発現亢進も検討する予定であったが、購入した抗c-Fos抗体で特異的染色が得られず、他の抗体にチャレンジすることとなった。現在はp-CREB 及び c-Fos の抗体染色条件の検討が済んでおり、実験の準備ができている。 以上のような抗体の特異性の問題による条件検討に時間を要したため実験が遅れた。また予想以上の施設利用費の高騰により、上記の問題に伴い新たに必要になった蛍光二次抗体試薬が購入できず、一部の実験が進められなくなってしまった。 一方、本来は平成28年度以降に予定していた行動実験を前倒して行い、想定していた以上のデータを得ることができ、より具体的な実験のプランを立てやすくなった。 以上の背景から、抗体の問題で遅れは出たものの、おおむね研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究でNPYのヒスタミン神経系への投射と、Y1RのFAAへの関与が示唆された。そこで次年度はY1Rノックアウトマウスを用いて、NPYによるFAA発現にHA神経系が関与することを確かめる。まず、これまでに詳細に調べられていない、TMNの亜核群(E1-E5 subdivision) におけるY1Rの発現を蛍光免疫組織化学染色法により調べる。次に、TMNへのNPY受容体アゴニストの局所投与によりY1R発現ニューロン上で p-CREB あるいはc-Fos の発現が起こることを確かめる。その上で、条件給餌マウスのTMNのY1R発現細胞におけるFAAに伴うc-Fos 及びp-CREBの発現が、Y1R-KOマウスにおいて消失することを指標として、Y1Rを介するFAAの発現にHA神経系が関わることを明らかにする。 またFAAは顕著な自発運動活性の増加と活発な探索行動に特徴づけられ、覚醒機能の亢進が関与すると考えられる。そこで、ヒスタミン神経系との相互投射が知られ、覚醒及び睡眠をそれぞれ司るとされる視床下部外側野(LH)のオレキシン産生神経及び前頭前野腹外側部(VLPO)のGABA神経系におけるFAA発現時刻前後のc-Fos発現の変化を蛍光免疫組織化学染色法により調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に施設利用費が決定した時点で残高が908円となったが、この値段で新たに購入できるものがなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度の実績から、施設利用費は約50万円となると考えられる。そこで次年度は施設利用費を除く約70万円を利用して、封入剤やゲノタイピング試薬などの消耗試薬の補充に加え、新たな実験計画に伴う抗体類の購入を行う。また、抗体による多重染色がうまくいかない場合は、in situ hybridization (ISH)と免疫染色とを組み合わせる必要が出てくる可能性がある。そこで、必要に応じてISH用プローブ作成用のprimerやクローニング試薬を購入し、ベクターの作成を行う。これは3年目の実験計画にも使えるものなので、臨機応変に対応する。残りは学会発表及び論文投稿費に利用したいと考えている。
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