筆者は一日一回4時間だけの条件給餌により食餌性リズムを形成したマウスを用いて、ニューロペプチドY (NPY) Y1受容体(Y1)が摂餌予知行動 (FAA)に関与していることを明らかにした。また、免疫組織化学染色法を用いて結節乳頭核(TMN)のヒスタミン神経亜核群(E1-E5)におけるNPY神経線維の投射とY1の発現とを明らかにした。さらにFAAの上昇が見られる時刻に対応して、これらのTMN亜核群において神経活性化マーカーの一つであるc-Fosの発現が時間依存的に上昇し、この発現がY1遺伝子欠損(Y1KO)マウスにおいて顕著に抑制されることを見出した。また、以前筆者が条件給餌を行ったラットにおいてヒスタミン神経系の新たな投射部位として報告した弓状核尾側内側部(ARCMP)においてもTMNと同様のタイムコースでc-Fos発現が起こり、これもY1KOにおいて顕著に抑制された。このY1受容体を介するFAAの調節機構へのヒスタミン神経系の関与を確かめるために、ヒスタミンH1受容体(H1R)拮抗薬である pyrilamine とヒスタミンの神経放出抑制薬であるヒスタミンH3受容体(H3R)作動薬 methimepip のFAAに対する影響を調べた。pyrilamine (10 mg/kg) あるいは methimepip (5 mg/kg) を腹腔内投与したマウスでは、生理食塩水を投与したマウスに比べFAAの減弱が見られた。さらに、pyrilamine 投与により、ARCMPにおけるc-Fosの発現も有意に抑制された。以上の知見から、NPY神経系がY1を介してTMNからARCMPへのヒスタミン神経回路の活性化を制御することにより、摂餌予知機能に関与することが示唆された。これらの知見は、第68回日本薬理学会北部会(山形)とHistamine 2017(オランダ)にて報告した。
|