研究課題
慢性腎臓病(CKD)の病態発症メカニズムや治療法の開発を目指し,長鎖ncRNAであるMALAT1に着目し,検討を行っている.本年度の検討により,マウス一側尿管結紮(UUO)モデル腎においてMALAT1が経時的に発現上昇することを見出した.また,本モデルでは重度の線維化及び炎症が惹起されるが,MALAT1の発現上昇パターンは筋線維芽細胞マーカーであるα-SMAや炎症マーカーであるTNF-αと同様であることを明らかとした.MALAT1と線維化,炎症の観点から検討を進めた.腎臓から単離した線維芽細胞を解析した結果,MALAT1が線維芽細胞に発現することを見出した.そこで,線維芽細胞におけるMALAT1の発現誘導機構を探索した.予備的検討ではあるが,TGF-βを用いて線維芽細胞を活性化させたところ,MALAT1が発現上昇することを見出しつつある.一方,炎症に着目したLPSの処置,糖尿病性腎症を模倣した高血糖刺激を試みたが,明確なMALAT1の発現変動は認められなかった.他方,リガンド開口型イオンチャネルであるP2X7受容体のノックアウトマウス(KO)では,UUOによる腎障害が抑制されることが報告されている.そこで,UUO手術を施したP2X7RKOの検討を端緒に,MALAT1と腎傷害との関連を評価した.その結果,P2X7KOではUUOによるMALAT1の発現上昇が抑制されることを見出した.またこの時,P2X7KOマウスとWTマウスとの間で線維化マーカーであるTGF-βの発現に違いがないこと,TNF-αはP2X7KOマウスで有意に抑制されることを明らかにした.以上の結果より,MALAT1は線維化より炎症に関与する可能性が考えられる.現在,培養血管内皮細胞を用いて,P2X7シグナル-MALAT1-炎症の観点から検討を進めている.
2: おおむね順調に進展している
腎線維化モデルを用いて,MALAT1の機能に関する検討を進めている.当初,腎組織サンプルを用いたin situ hybridization法を用いて,MALAT1が発現上昇する細胞の同定を試みる予定であったが,明確に同定することができていない.しかしながら,培養線維芽細胞での発現誘導機構に関する検討や遺伝子改変マウスを用いた検討から,MALAT1の炎症との関連性及び分子ネットワークにおけるMALAT1の位置づけを見出しつつあり,おおむね計画通りに遂行している.
今後,培養細胞を用いて,P2X7シグナルや炎症とMALAT1との関連性を中心に検討を進める.すなわち,P2X7活性化ペプチドであるLL-37の処置により,MALAT1の発現が上昇するかどうか及び炎症が誘導されるかどうかを検討する.これらが認められれば,MALAT1のsiRNAを用いたノックダウン系を構築し,その機能を評価する.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Am J Physiol Heart Circ Physiol.
巻: 311 ページ: 476-486
10.1152/ajpheart.00180.2016.