我々は蛋白脱アセチル化酵素SIRT1による細胞保護効果の分子メカニズムの解明を行ってきたが、骨格筋におけるSIRT1の機能は解明されていない。最近我々は筋ジストロフィーモデルマウスの骨格筋障害がSIRT1活性化薬レスベラトロール(RSV)により軽減することを見出し、さらにSIRT1活性化による骨格筋オートファジー亢進がその保護機構に関与する可能性を見出した。本研究の目的は、以上の知見を発展させSIRT1が「マイトファジー」つまりオートファジーによる障害ミトコンドリア処分機構を調節するかどうか解明し、新規骨格筋治療の開発を目指すことである。 平成27年度には骨格筋特異的SIRT1KOマウス(smKOマウス)における骨格筋機能低下およびオートファジーの減弱を確認することができた。この結果から、骨格筋細胞のSIRT1は骨格筋の機能維持および障害抑制に重要な役割を果たしていることが示された。 平成28年度はC2C12マウス筋芽細胞を用いたin vitroの実験系で、SIRT1によるマイトファジーおよびミトコンドリア保護との関連と制御メカニズムの検討を行った。C2C12細胞において、ミトコンドリア電子伝達系阻害薬アンチマイシンAの処置により増加するミトコンドリアの活性酸素(ROS)がRSV処置で有意に抑制されたが、マイトファジー関連因子PINK-1のノックダウンにより、RSV処置によるROSの抑制作用が見られなくなった。この結果から、SIRT1がマイトファジーを調節することで骨格筋の障害を抑制している可能性が示された。 今後は、smKOマウスにおけるマイトファジー関連因子の発現の検討とSIRT1結合蛋白・脱アセチル化蛋白の網羅的解析を行う。継続して本研究課題の実験を行い、これまでに得られたデータと共に論文にまとめていくこととする。
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