研究課題/領域番号 |
15K18999
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村上 昌平 東北大学, 加齢医学研究所, 産学官連携研究員 (20746911)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | Keap1-Nrf2制御系 / 造血幹細胞 / 増殖・分化 |
研究実績の概要 |
本研究では、『一過性』のNrf2活性化による造血幹細胞への影響を明らかにするために、Nrf2誘導剤であるCDDO-Imを野生型マウスに投与し、造血幹細胞の細胞周期エントリーが促進されるかどうかを検討した。その結果、CDDO-Im投与群では、骨髄中の造血幹細胞の増加が観察され、細胞周期エントリーも促進されることが分かった。このCDDO-Im投与による細胞周期エントリーはNrf2依存的であり、Nrf2欠損マウスでは観察されなかった。次に、この増加した造血幹細胞の性質(自己複製能および多分化能)を評価するために、骨髄細胞を用いて競合的骨髄移植実験を行った。CDDO-Im投与群では骨髄中に含まれる造血幹細胞は増加していたにも関わらず、レシピエントマウスへの生着率はVehicle投与群と比較して同程度であった。したがって、CDDO-Im投与によって増加した造血幹細胞は、正常な造血幹細胞と競合的に移植した場合、生着することができず、ほとんど分化してしまうと考えられた。 次に、炎症性サイトカインに対する造血幹細胞の性質変化にNrf2活性化が寄与しているかどうかを検討するために、予備実験として、Nrf2活性化レポーターマウスにpolyinosinic-polycytidylic acid(pIpC)を投与した。pIpCはinterferon αなどの炎症性サイトカインの分泌を誘導することが知られている。その結果、pIpC投与によって造血幹細胞の増殖は促進されたものの、Nrf2活性化を示すtdTomato蛍光の増強は観察されなかった。したがって、炎症性サイトカインによる造血幹細胞の増殖促進および遊走能変化にNrf2活性化は寄与していないと考えられる。ゆえに、Nrf2による造血幹細胞の増殖に寄与する分子機構は、G-CSFなどの炎症性サイトカイン刺激で誘導される分子機構とは異なると推察される。したがって、Nrf2誘導剤はG-CSFとの併行投与によって造血幹細胞の活性化を促進させることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの申請者の研究から期待された通り、Nrf2誘導剤は造血幹細胞の増加を促進することが示された。また、サイトカインによる造血幹細胞の活性化にはNrf2が寄与していないことが示唆されたことから、Nrf2誘導剤はサイトカイン誘導とは異なる分子機構で造血幹細胞を活性化していると推察された。これらの結果は、Keap1-Nrf2制御系が新規の造血幹細胞の増殖誘導剤開発において標的となりうる可能性を示唆している。しかしながら、CDDO-Im投与による『一過性』のNrf2活性化では、機能的な(移植後に生着可能な)造血幹細胞を増加することはできなかった。一方、これまでに、『恒常的』にNrf2を活性化させた造血幹細胞では骨髄再建能が低下することが分かっている。したがって、『恒常的』な活性化と同様にして、『一過性』でもNrf2を活性化させると、幹細胞性を消失させる分子機構が働いてしまうことが予想された。 そこで今後は、Nrf2活性化が造血幹細胞において幹細胞性の消失を誘導する分子機構を明らかにし、その分子機構を阻害することで、Nrf2誘導剤によって機能的な造血幹細胞を増加させることができるかどうかを検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の結果から、『一過性』のNrf2活性化も造血幹細胞の増殖は促進するものの、同時に幹細胞機能も消失させてしまうと考えられた。このことは、『恒常的』なNrf2活性化が造血幹細胞の枯渇を導くことと良く一致している。そこで、今後はKeap1を欠損によってNrf2が恒常的に活性化した造血幹細胞を用いて、その枯渇に寄与する分子機構を明らかにする。 しかしながら、骨髄移植後に枯渇しつつある造血幹細胞を用いて分子生物学的な解析を行うことは、その細胞数が限られていることや、長時間観察しなければならないことから、遂行するのは困難であると考えられる。そこで、骨髄移植の代わりに、造血幹細胞を培養条件下で増殖を促進させ、幹細胞機能を維持できるかを検討する。すでに、同条件下において、Keap1欠損の造血幹細胞は幹細胞の維持が悪いことが分かっている。そして、この現象はNrf2活性化を抑制することで観察されなくなる。この条件下において、Nrf2活性化による造血幹細胞維持の低下に寄与する分子機構を明らかにする。そして、その分子機構の阻害剤が入手可能であれば購入し、Nrf2活性化による造血幹細胞の機能不全を改善できるかどうか検討する。その結果、造血幹細胞の機能不全が改善された場合は、CDDO-Imおよびその阻害剤を培養条件下で添加、あるいは、マウスに投与することで、機能的な造血幹細胞を増殖できるかどうか検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
該当年度に計画していた実験の約半分を遂行した結果、今後の研究方針を変更した方がよいことが分かった。特に、これまでは、CDDO-Im投与による『一過性』のNrf2活性化の影響と炎症性サイトカイン刺激によるNrf2活性化の有無を検討するために、実験動物として、Nrf2欠損マウスとNrf2活性化モニターレポータマウスを主に準備していたが、今後の実験では、造血細胞でKeap1を欠損したマウスを中心に解析を行う必要が生じた。そのため、新たな実験動物の準備およびその解析に適した実験環境を整えるために時間を要し、その他の試薬の購入等に当たる必要経費が少なくなった。以上の理由で、使用額が予定した金額よりも少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
今後は、Keap1欠損の造血幹細胞を培養条件下で維持することで、造血幹細胞の機能変化を評価し、Nrf2活性化によって誘導される分子機構を検討する。そして、造血幹細胞の機能不全を招く原因となる分子機構を明らかにする。そのため、造血幹細胞の単離や培養および分子生物学的解析に必要な試薬を購入する。また、Nrf2活性化による造血幹細胞の機能不全の原因となる分子機構が明らかにされた場合、その分子機構の阻害を試みる。そのために必要な試薬を購入する予定である。さらに、造血幹細胞の機能を評価するためには、レシピエントマウスへの移植が必須であるため、レシピエントマウスの購入を予定している。 以上の実験計画から得られる研究成果を国内・国際学会において発表し、さらに論文にまとめる。そのための費用として用いる。
|