本研究では、『一過性』のNrf2活性化による造血幹細胞の性質変化を明らかにするために、Nrf2誘導剤であるCDDO-Imを野生型マウスに投与した。その結果、CDDO-Im投与群では、骨髄中の造血幹細胞が増加し、その細胞周期エントリーも促進されることが分かった。しかし、骨髄移植実験を行うと、CDDO-Im投与群では骨髄中に含まれる造血幹細胞が増加していたにも関わらず、レシピエントマウスへの生着率はVehicle投与群と比較して同程度であった。ゆえに、Nrf2活性化によって増加した造血幹細胞は生着することができず、ほとんど分化してしまうと考えられた。 次に、造血幹細胞を幹細胞因子(SCF)とトロンボポエチン(TPO)の存在下にて培養したところ、Nrf2が活性化した造血幹細胞はCD41陽性の巨核球様細胞に分化しやすいことが分かった。TPOは巨核球分化誘導因子であり、Nrf2が活性化した造血幹細胞では巨核球様細胞へ分化が促進されたことから、Nrf2活性化は造血幹細胞のTPOシグナルに対する感受性を亢進させると推察された。 一方、本研究では、polyinosinic-polycytidylic acid誘導性のinterferon αによる炎症性サイトカイン依存的な造血幹細胞の活性化および遊走能変化には、Nrf2は寄与していないことも明らかにしている。 したがって、Nrf2はTPOシグナル経路を亢進させることで、造血幹細胞の活性化を誘導している可能性が考えられた。今後、造血幹細胞の活性化剤としてNrf2誘導剤の臨床応用を考えるためには、Nrf2下流でTPOに対する応答性亢進に寄与する分子機構を検討し、造血幹細胞の増殖促進と幹細胞性消失、それぞれに寄与している分子機構を明らかにすることが重要である。
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