研究課題
乳癌は、世界中で毎年百万人以上の女性が罹患しており、転移性乳癌によって年間数十万人もの患者が死亡している極めて悪質な疾患である。しかし、その主たる死亡原因である乳癌の転移は、現在基本的に完治させる方法が存在せず、その分子メカニズムの解明および治療法の確立は急務である。本研究では、乳癌転移の後期プロセスである二次組織での癌細胞の生存、定着、転移巣の形成に着目し、その分子実態を同定することで、転移を抑制するための新たな薬剤標的の同定を目指す。組織免疫学的解析により、肺における転移乳癌細胞の定着および転移巣の形成を経時的に観察したところ、肺に到達した乳癌細胞は極初期の段階から肺微小血管内皮細胞と密接に接触していた。また、転移巣形成が進行するにつれて、肺微小血管はその形態を変化させていた。これらのことから、乳癌の肺転移において、癌細胞と肺血管内皮細胞の両細胞間で何らかの分子的クロストークが存在し、互いのシグナル伝達系に影響を与えていると考えられる。しかし、この細胞間クロストークを司る分子実態は、現在のところほとんど明らかとなっていない。そこで次に、肺血管内皮細胞の形成するニッチの分子実態を同定するために、転移巣を有するマウス肺より血管内皮細胞を単離し、マイクロアレイによりその遺伝子発現変化を解析した。現在、得られた遺伝子発現データを詳細に解析している段階である。この解析により、乳癌肺転移における血管性ニッチの分子実態が明らかになると考えられ、転移性乳癌に対する新たな薬剤標的の同定が期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、独国German Cancer Research Centerとの共同研究により実施されており、該当研究所における分析技術、解析技術を共有しながら、効率良く実験を進めている。そのため、これまで実施したマイクロアレイの実施およびそのデータ解析等はおおむね順調に進んでいる。
今後は、マイクロアレイによって得られた肺血管内皮細胞の遺伝子発現をもとに、転移乳癌細胞の定着、転移巣の形成に関与する分子の同定を進める。また、肺血管内皮細胞のシグナル伝達解析を実施し、同定した重要分子の発現誘導機構を解析する。これらの解析により、乳癌肺転移における血管性ニッチの形成メカニズムが同定できると考えられる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件)
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