Activation Induced cytidine deaminase (AID) は、抗体改変に必須の分子で、エピゲノム制御にも関連する一方で、内因性の変異原として細胞がん化に働くと考えられている。AID遺伝子 (Aicda) の発現の有無や程度は、周囲からの刺激に連動した複数の転写調節因子に加え、広範囲にわたり多数存在するシス調節領域群によって制御され、Bリンパ球特異的に発現しているが、Bリンパ球特異的な発現を担う要因は不明である。本研究は、活性化Bリンパ球、未熟Bリンパ球において、Aicda制御配列に対する各種転写調節因子の重要度を明らかにすると共に、CRISPR/dCas9を用いたenChIP等の手法を活用し、Aicda領域に結合する転写調節因子―DNA複合体の構造を解明することで、Aicdaの発現調節機構を調べることを目的としている。 本研究において、転写因子Batfが過去の報告と一致し、細胞外刺激に応じたAIDの発現に必須であることが確かめられた。しかしながら、AID発現に寄与するBatfのAicda遺伝子上の結合領域は、これまで考えられてきた転写開始点下流の領域とは異なる領域に存在することが考えられた。そこで、種々のAicda制御領域欠損細胞株を作成し、Aicda発現に大きく寄与するゲノム領域を複数明らかにした。この内Batfは、転写因子IRF4と複合体を形成して転写開始点上流の領域に結合することにより、Aicda発現に寄与することが考えられた。このことから、Batf、IRF4を用いたChIP解析及び、enChIP解析により、この領域のBatf、IRF4の結合能の評価及び遺伝子座の取り得る構造の解析を進めた。AID発現に関与するBatfの結合領域の探索に予想以上の期間を要した為、enChIP解析に関しては、本研究課題終了後も継続して取り組んでいく予定である。
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