研究課題/領域番号 |
15K19008
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中木 文雄 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60737120)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 胚性幹細胞(ES細胞) / 始原生殖細胞 / 転写因子 / 運命決定 / ChIP-seq |
研究実績の概要 |
生殖細胞系譜は、始原生殖細胞(Primordial germ cells; PGCs)を起源とする。PGCsは運命決定後、エピジェネティック修飾を再編成するエピゲノムリプログラミングを経る。この過程の分子機構の解明は、発生生物学や幹細胞生物学における重要な課題である。これまでの研究で、マウス胚性幹細胞(Embryonic stem cells; ESCs)をエピブラスト様細胞に誘導し、3種類の転写因子(Blimp1、Prdm14、Tfap2c)を人為的に過剰発現することにより、高効率でPGC様細胞(Transcription factor-induced PGC like cells; TF-PGCLCs)が誘導されることが明らかとなっている。 本研究の目的は、機能的に検証されたこの培養モデルを用いて、これらの転写因子の動態解析をゲノムワイドレベルで行うことにより、PGC運命決定およびエピゲノムリプログラミングの分子機構を包括的に明らかにすることである。 これまでに、免疫沈降効率の高いエピトープタグを融合させた3遺伝子を高発現するESCsを樹立して、クロマチン免疫沈降法と次世代シーケンサーを併用(ChIP-seq法)して、BLIMP1、PRDM14、TFAP2Cの結合部位を、ゲノムワイドに同定した。TF-PGCLC誘導機構を詳細に解析するために、強制発現させる遺伝子の種類(3遺伝子同時の場合または各1遺伝子を発現させる場合)、強制発現させる細胞の種類(エピブラスト様細胞またはESCs)を変化させた場合についても、データを収集した。また、この分化過程のトランスクリプトームデータを取得予定であり、これらを統合的に解析することで、TF-PGCLCsの誘導機構をゲノムワイドレベルで明らかにする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、免疫沈降効率の高いエピトープタグを選定し、それらを融合させた3遺伝子を高発現するESCsを樹立した。強制発現させる遺伝子の種類(3遺伝子同時の場合または各1遺伝子を発現させる場合)、強制発現させる細胞の種類(エピブラスト様細胞またはESCs)について、様々なパターンかつ複数の細株について、ChIP(クロマチン免疫沈降)法を行い、さらにChIP-seq法により、BLIMP1、PRDM14、TFAP2Cの結合部位を、ゲノムワイドに同定した。 トランスクリプトーム解析については、外来遺伝子の発現レベルが高い細胞に注目するため、少数細胞レベルで行う予定であった。しかし、最終目的の達成のためには、複数の細胞株および条件でのトランスクリプトームを比較することがより適切であると考えられた。そこで、外来遺伝子発現量の指標となる蛍光タンパク質レポーターを持つベクターを用いて、細胞集団内での発現量の分布を評価したところ、多くの細胞株で外来遺伝子の発現量は比較的均一であり、TF-PGCLCsの誘導は外来遺伝子の発現量に依存しないことが判明したため、外来遺伝子を発現させた細胞集団全体のトランスクリプトーム解析を行うこととし、現在データ取得中である。 以上より、今回の計画の基盤的データの取得が完了しつつあり、一部のデータ解析を開始できているため、概ね順調と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得られたChIP-seqデータおよびトランスクリプトームデータを解析し、まず標的遺伝子を同定する。その中でも、特に哺乳類の発生過程の制御に重要な転写因子およびエピジェネティック修飾因子を探索する。また、既存のエピゲノムデータを、3遺伝子の結合領域と比較することにより、3遺伝子がリクルートするエピジェネティック修飾因子を探索する。これらの解析により、3遺伝子によるPGC運命決定およびエピゲノムリプログラミング制御モデルを構築する。 次に、構築したモデルを検証するため、解析の結果同定された主要な遺伝子やエピジェネティック修飾因子について、ゲノム編集ツール(CRISPR/Cas9)を用いて、TF-PGCLC誘導可能なESCsから目的遺伝子の遺伝子ノックアウトESCsを直接作製し、TF-PGCLC誘導に与える影響を検討する。 以上の通り、大規模解析を中心として、得られたモデルを実験的に検証し、エピゲノムリプログラミング開始機構を包括的に理解することを目指す。
|