研究実績の概要 |
尿管芽は中腎管より出芽する腎臓原基であり、その位置や数は正常な腎臓発生において厳密に制御されている。尿管芽形成にはGDNF/Ret依存的なMAPKシグナル経路が重要な機能を果たすことが知られているが、中腎上皮特異的beta-catenin KOマウスにおいてGDNF/Ret非依存的MAPKシグナル経路の活性化が確認された(﨑田ら, 和歌山医学 2016年)。前年度までに、GDNF/Ret非依存的MAPKシグナル経路の上流候補シグナルとしてFGFシグナルに着目し、中腎上皮特異的beta-catenin KOマウスのバックグラウンドにFgfr2遺伝子の欠損を導入した複合遺伝子KOマウス胚を解析した。その結果、中腎上皮特異的beta-catenin KOマウスにおける異所的な尿管芽の形成にFgfr2は寄与しない可能性が示唆された。平成29年度は前年度に十分に得られなかった複合遺伝子KOマウス胚を産出し、組織学的解析を行った。前年度にプレリミナリーに確認されていたとおり、複合遺伝子KOマウスでは、中腎上皮特異的beta-catenin KOマウスの示した異所性尿管芽の表現型が回復することはなく、異所性尿管芽においてc-Junシグナルの活性化が確認された。さらに中腎上皮特異的beta-catenin KOマウスの異所性尿管芽におけるGDNF/Ret非依存的MAPK関連シグナル活性化経路の探索を行った結果、これまで示唆されていた、FGF、BMPシグナル経路とは異なる新規の経路の関与が示唆された(投稿準備中)。研究期間全体を通して本研究で得られた知見は、尿管芽形成において従来から示唆されていたGDNF/Retシグナル等とは独立した新規のMAPKシグナル経路の機能をはじめて示唆するものである。
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