研究課題/領域番号 |
15K19015
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
佐藤 龍洋 北里大学, 薬学部, 助教 (70547893)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | Rheb / mTOR / CAD / ヌクレオチド生合成 / filamin A |
研究実績の概要 |
1. Rhebが恒常的に活性化したTSC2ノックアウトマウス由来腎臓がん細胞(E8)、およびその細胞にTSC2を再発現させた細胞(T2-5)を用いて、ピリミジンヌクレオチド量を測定した。その結果、E8においてピリミジンヌクレオチドであるUTP、CTP量の上昇が見られた。また、T2-5細胞をインスリンで刺激して、より生理的な条件でTSC2を抑制しRheb-mTORC1を活性化させた場合にもピリミジンヌクレオチド量の上昇が見られたが、この上昇はmTORC1阻害剤ラパマイシンでは抑制できなかった。一方、プリンヌクレオチドであるATP、GTP量の上昇は観察されなかった。これらの結果から、Rheb-CADシグナル伝達経路が、mTOR非依存的にピリミジンヌクレオチド生合成を促進することがわかった。 2. mTORの新規基質として同定したfilamin Aについて解析を行い、mTOR複合体2(mTORC2)がfilamin Aのセリン2152番を直接リン酸化すること、これによりインテグリンとの結合が上昇することを明らかにした。また、mTORC2によるfilamin Aリン酸化が細胞接着斑の形成と細胞運動を促進することを示唆するデータを得た。 3. Rhebのさまざまな変異体を使用し、新規結合タンパク質SmgGDSとの結合を調べ、SmgGDSはRhebの不活性型変異体に強く結合すること、脂質修飾部位を欠損した変異体にほとんど結合しないことを明らかにしつつある。 4. mTOR変異体の機能解析 サンガー研究所に登録されているがん細胞mTOR遺伝子変異を解析したところ、一部の変異体が活性化型変異体として機能することを見出している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Rhebはピリミジンヌクレオチド生合成経路の律速酵素であるCADに結合し、その酵素活性を上昇させることを明らかにしている。これに加えて、Rheb-CAD経路が実際に細胞内でも生合成を促進することを示唆するデータを示し、RhebのエフェクターであるmTORC1非依存的である可能性を示唆し、予想通りの結果を得ることができた。また、mTORC2がfilamin Aをリン酸化し、これがメラノーマにおいて細胞斑形成を促進するデータを得た。また、mTORC2によるfilamin Aのリン酸化がメラノーマの運動に関与することを示唆するデータを得て、これらの成果を論文に報告することができた。 他にもRhebの新規結合タンパク質SmgGDSがRhebの活性化状態や脂質修飾の有無に応じて結合を変化させることを明らかにしており、がん細胞に見られるmTORの変異体解析では一部ではあるが活性化変異体として作用する変異を同定することができているため、研究はおおむね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
新規Rheb 結合因子SmgGDSについて、脂質修飾を阻害するファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤を処理した細胞を用いて免疫沈降を行い、SmgGDSがRhebの脂質修飾部位に結合するかどうかをさらに検討する。Rheb脂質修飾部位へのSmgGDSの結合は、Rhebの膜への集積を阻害し、細胞質へと局在を変化する可能性が考えられる。そこで、SmgGDSを過剰発現、もしくはノックダウンしてRhebの局在を観察し、SmgGDSがRhebの局在を制御するかどうかを蛍光染色法、細胞分画によるウエスタンブロッティング法により検討する。 mTOR活性化変異体については引き続き、mTORの活性を変化させる変異がないかどうかを培養細胞内、およびin vitroアッセイで検討していく。活性化が認められた変異体についてはその変異部位をmTOR立体構造にあてはめ、mTOR活性化を引き起こす原因について検討する。また、mTOR活性化変異体が子宮体、腎臓のそれぞれの細胞のがん化に関与するかどうか検討する。 新規mTOR基質については、in vitro kinase assayを行い、基質のリン酸化部位の同定を行う。また、新規基質と同じファミリーに属するタンパク質についてもmTORによるリン酸化が見られるかどうか検討し、mTORがそれらタンパク質全体のリン酸化、機能制御に関わる可能性について検討し、その後非リン酸化変異体、疑似リン酸化変異体を作成して細胞に発現させ、細胞機能への影響を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
申請者が所属を移動することなり、試薬関連、解析機器等の消耗品を最小限に控えたために、使用額がわずかに少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
購入を控えた解析機器を購入し、また、培養細胞の解析に必要な試薬、遺伝子解析、タンパク質に必要な試薬を購入して、研究を進めていく予定である。
|