ERK経路は細胞増殖、分化、発癌制御など各種細胞機能を担うシグナル伝達経路である。最近、孤発性癌および先天性Ras/MAPK症候群の遺伝学的解析から、ERK経路のMAPKKであるMEKの活性型遺伝子変異が多数同定された。申請者は、これら疾患由来のMEK遺伝子変異体を用いて、高ERK活性下で発現誘導/抑制される特定遺伝子群を網羅的に探索し、その分子機能を解明することによって、癌または先天性疾患という重篤疾病の発症メカニズムを分子・個体レベルで解明することを目標とした。前年度までに、異常に強いERK活性を示す癌細胞にて強発現する新規遺伝子の中でも、機能未知な蛋白質およびncRNA(lncRNA)を同定した。今回、これらの新規遺伝子産物の分子機能を明らかにするべく、細胞生物学的アッセイおよび生理的結合分子の探索を実施した。 1)新規蛋白質分子(約10kDa)は複数の癌細胞で高発現しており、高発現に依存して細胞増殖能が増進することが示された。また、その結合分子としてアクチン骨格制御分子が複数単離された。本結果から、癌細胞が細胞骨格形成を積極的に制御することで遊走能や浸潤能に寄与している可能性が示された。実際に、これらの機能に関するin vitroでのアッセイで、同蛋白質が運動能に影響する結果を得ている。 2)新規LincRNA分子は、非常に幅広い癌細胞でERK活性依存的に発現しており、また生理的なERKシグナル(増殖因子など)でも一定のレベルで発現誘導されることが分かった。同分子を非癌細胞であるHEK293細胞に高発現したが、細胞増殖能や細胞死などの機能に大きな変化は見られなかった。そこで、RIP(RNA-immunoprecipitation)法により同RNA分子に結合する蛋白質を探索した結果、特異的結合を示す幾つかの機能分子を得た。
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