研究課題
C型肝炎ウイルスは肝臓に慢性の炎症を引き起こし、肝細胞がんの原因にもなるRNAウイルスである。C型肝炎ウイルスは肝細胞へ感染すると、ウイルスRNAの複製とウイルスタンパク質の合成を繰り返し、これらを部品としてウイルス粒子を形成する。ウイルス粒子は肝細胞の分泌機構を介して放出され、別の肝細胞に感染する。C型肝炎ウイルスのウイルスタンパク質NS5Aは、ウイルスRNAの複製とウイルス粒子の形成の両方に必要なリン酸化タンパク質である。低リン酸化型(p56)のNS5AはウイルスRNAの複製を、高リン酸化型(p58)のNS5Aはウイルス粒子の形成をそれぞれ促進するとされる。NS5Aをリン酸化するキナーゼの一つとして、セリン/スレオニンキナーゼであるカゼインキナーゼが同定されている。本研究では、c-AblによるNS5Aのチロシンリン酸化が、ウイルス粒子形成に必要であることを明らかにした。また、変異ウイルスを作成するなどして、NS5Aのチロシンリン酸化部位を同定した。このリン酸化の役割をさらに詳細に調べたところ、ヌクレオカプシドがエンベロープを獲得する過程に関与することを示唆する結果を得た。NS5Aのチロシンリン酸化の役割を見出したのは本研究が初めてである。NS5A(またはNS5)の宿主キナーゼによるリン酸化は、フラビウイルス科に共通して見られる特徴であることから、フラビウイルス科に属するほかのウイルスの粒子形成機構を解明する上で、有用な成果が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、変異ウイルスなどを用いて、NS5Aのチロシンリン酸化の意義を明らかにできたため。
NS5Aのチロシンリン酸化がウイルス粒子形成に必要であることが明らかになったが、そのメカニズムは不明である。今後はチロシンリン酸化NS5Aの生化学的解析を通して、NS5Aがどのようにウイルス粒子形成を促進するのかを調べていく予定である。
抗体などの消耗品の購入費が想定を下回ったため。
老朽化した実験機器の更新などを検討している。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
J. Biol. Chem.
巻: 290 ページ: 21857-21864
10.1074/jbc.M115.666859