本研究では、新規セカンドメッセンジャーcyclic GMP-AMP(cGAMP)がどのように細胞内で産生され、どのような下流シグナルを伝えるのか、その分子メカニズムを解明することを目的とした。まず、cGAMPを高感度かつ特異的に検出するための独自のin vitroアッセイ系を開発した。このアッセイ系を利用し、DNAが恒常的に細胞質に漏出するDNaseⅡ欠損マウスにおいて、cGAMPが過剰に蓄積していることを明らかにした。そこで、細胞質内DNAセンサー分子cGASに着目し、CRISPR/Cas9システムによってDNaseⅡとcGASの二重欠損細胞あるいはマウスを作製した。その結果、二重欠損細胞およびマウスではcGAMPの蓄積が全く認められなかった。また、cGAMPが蓄積するDNaseⅡ欠損マウスでは炎症性サイトカインの過剰産生により重度の貧血を引き起こすが、DNaseII/cGAS二重欠損マウスではサイトカインの産生が抑えられ、貧血が改善することを確認した。以上より、cGASが細胞質中に漏出した自己DNAを感知すると、cGAMPの産生を促して炎症を惹起することが明らかとなった。さらにcGAMPを介したシグナル伝達機構について解析を進め、下流で活性化するTBK1キナーゼの基質を網羅的に探索するため、定量性・網羅性の高い新たなプロテオミクス法を構築した。そして、新規TBK1基質としてオートファジー関連因子GABARAPL2の同定に成功した。さらに、GABARAPL2がリン酸化されると機能未知のタンパク質との相互作用が特異的に変化することを見出し、cGAMP下流シグナル伝達機構に新たな知見をもたらすことができた。
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