研究課題
Hippo経路は、細胞外力や細胞外基質などの微小環境を感知して細胞増殖を制御する細胞内シグナル経路として近年注目されている。本研究では、細胞外力を最も受け、細胞外基質にも富む、骨・軟骨組織に注目し、軟骨細胞・骨芽細胞に特異的なMOB1欠損マウス及びYAP1欠損マウスを作製した。具体的には、平成27年度は、Ⅱ型コラーゲンCol2a1-Cre/ERTトランスジェニック(Tg)マウスを用いることで、タモキシフェン投与によって軟骨細胞特異的にMOB1欠損及びYAP1欠損マウスを作製した。また、Sp7(Osterix)-tTA/tetO-Cre Tgマウスを用いることで、ドキシサイクリン除去により骨芽細胞特異的にMOB1及びYAP1を欠損するマウスを作製した。Hippo経路の骨・軟骨組織特異的な欠損マウスを作製・解析して、(1)骨・軟骨細胞におけるHippo経路の生理的役割やその破綻病態、(2)骨・軟骨細胞腫瘍化へのHippo経路の関与の有無、及び(3)これらマウスにみられる表現型の分子メカニズムを解明することを目的としている。軟骨細胞特異的MOB1欠損マウスでは軟骨形成が抑制されて体長の短縮を認め、一方、骨芽細胞特異的MOB1欠損マウスでは骨芽細胞の増殖による骨硬化像を認めた。これらのMOB1欠損マウスにYAP1欠損マウスをかけ合わせたところ、その表現型の一部が改善され、YAP1の発現上昇がこれらの表現型に関わっていることが示された。Hippo経路の遺伝子欠損マウスを解析することにより、骨芽細胞及び軟骨細胞の発生分化の分子メカニズムの一端を解明するとともに、加齢に伴う骨・軟骨疾患に効果的な治療薬や再生医療の開発につながる基礎研究を行うことができると考える。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、(1)軟骨細胞特異的MOB1欠損マウスでは体長の短縮を認め、一方、骨芽細胞特異的MOB1欠損マウスでは骨硬化像を認めることが明らかとなった。組織学的形態計測では、軟骨細胞特異的MOB1欠損マウスでは関節軟骨・成長軟骨の短縮、石灰化速度の低下を認め、骨芽細胞特異的MOB1欠損マウスでは、骨梁数、類骨量の増加を認めた。(2)次に、YAP1欠損マウスの解析では、明らかな表現型を認めなかったものの、MOB1欠損マウスにYAP1欠損マウスをかけ合わせたところ、MOB1欠損に伴う表現型の一部が改善されることを見出し、MOB1欠損の表現型の一部はYAP1に依存することを明らかにした。(3)免疫組織染色により、軟骨細胞特異的MOB1欠損マウスにおいて、軟骨静止層・増殖層・肥大層が広く減少していることがわかった。また、骨芽細胞特異的MOB1欠損マウスでは骨芽細胞の増殖が認められた。このようにHippo経路の中でもMOB1による軟骨細胞及び骨芽細胞の増殖・分化制御を明示し、研究はおおむね順調に進展している。
MOB1欠損に伴う下流分子の変化、生理学的意義づけについて、詳細な検討を行う予定である。MOB1欠損での表現型の一部はYAP1の発現上昇に依存することから、マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現変化を検討するとともに、YAP1に対するクロマチン免疫沈降法を行い、YAP1が転写レベルで影響する新たな標的遺伝子を同定する。これらの解析によりHippo経路による軟骨・骨組織特異的な遺伝子発現の制御機構が明らかとなる。また、野生型マウスにおいて、骨・軟骨組織におけるMOB1やYAP1の発現量変化を、軟骨細胞形成が抑制されて骨端が閉鎖する青年期後期、及び骨粗鬆症や変形性関節症が多発する老年期など、経時的に定量する。以上の解析より、成長・疾患にHippo経路がどのように関わっているかを明示する
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Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 113 ページ: 71-80
10.1073/pnas.1517188113.