研究課題/領域番号 |
15K19028
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
木村 鮎子 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任助教 (50553616)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 卵巣明細胞癌 / リン酸化 / 悪性度 / SWI/SNF複合体 / Brg1 / OCCC |
研究実績の概要 |
研究代表者らは、質量分析装置を用いたこれまでの解析により、悪性度の高いことで知られる卵巣明細胞癌 (Ovarian Clear Cell Carcinoma: OCCC)において、他の組織型の卵巣癌と比べて、SWI/SNFクロマチン再構成複合体コアサブユニットBrg1のリン酸化レベルが著しく低下していることを見出している。本研究では、本修飾と癌の悪性化機構との関係を明らかにすることを目指して、抗リン酸化Brg1抗体とリン酸化部位に変異を導入した安定発現細胞株を作成し、解析を行う。 本年度はまず、Brg1のリン酸化部位を含むペプチドを合成し、これをウサギに免疫してポリクローナル抗体を作成し、この抗体を用いて、卵巣癌細胞株を含む27種類の癌組織由来細胞株におけるBrg1リン酸化レベルの解析を行った。結果、OCCC以外の組織型の卵巣癌細胞株と比べて、OCCC細胞株では、Brg1のリン酸化レベルが低値を示す傾向が顕著に見られたほか、他の組織に由来する一部の癌細胞株でも、Brg1リン酸化レベルの著しい低下が確認された。次に、HEK293T細胞株を用いて、Brg1のリン酸化部位のセリンをアラニンに置換したリン酸化部位欠損変異と、アスパラギン酸に置換したリン酸化部位擬態変異を導入した安定発現細胞株をそれぞれ構築し、癌の悪性化に関わる様々な表現型の解析を行った。細胞内での代謝反応を利用した生細胞数測定アッセイでは、Brg1リン酸化部位欠損変異株において細胞増殖能の増加が検出された。一方で、OCCCでは耐性を獲得するケースが多い白金製剤系抗癌剤存在下での細胞増殖能や、癌細胞の転移・浸潤に関わる細胞遊走能に、各細胞株間での有意差は見られなかった。また、これらの細胞株を用いたプロテオーム・リン酸化プロテオームの比較定量解析では、リン酸化部位欠損変異株において、ヒストン修飾酵素や転写因子などのリン酸化タンパク質や、ヌクレオソームのタンパク質等の顕著な増加が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、Brg1のヒストン結合ドメインにおけるリン酸化修飾の機能を解明するにあたって、必要となる、当該リン酸化部位を認識するポリクローナル抗体の作成と、リン酸化部位のアミノ酸を置換する変異を導入した安定発現細胞株を構築した。これらを用いて、Brg1のリン酸化レベル低下がOCCC細胞株で特異的に見られることを確認し、さらにBrg1のリン酸化が細胞増殖の制御に関わることを示す結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記で構築した安定発現細胞株を用いて、さらにDNaseI処理とゲノムPCRによるクロマチン解きほぐし活性の測定、親和性タグを利用したSWI/SNF複合体の精製とSDS-PAGE・LC-MS・免疫ブロット解析による複合体構成因子の確認、免疫組織学的解析によるSWI/SNF複合体の細胞内局在解析、リアルタイムPCRを用いたSWI/SNF複合体による発現調節を受けるp21やSmadなどの癌抑制遺伝子の発現量解析などを行い、SWI/SNF複合体の機能的な変化の有無を確認する。さらに、既に免疫ブロット解析によってBrg1が発現していないことが確認されているOCCC細胞株1種について、野生型、リン酸化部位欠損・擬態変異型Brg1の塩基配列を含むプラスミドをそれぞれ導入して安定発現細胞株の構築を行い、上記と同様に、表現型解析とSWI/SNF複合体の機能解析を行う。さらに、変異導入細胞株を用いて、トランスクリプトーム・プロテオーム・リン酸化プロテオームの比較定量解析を行い、表現型変化に関わる細胞内経路などの探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗リン酸化抗体の外注にかかる費用が想定よりも低く抑えられたこと、学会参加予定を変更したことなどから、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
クロマチン再構成複合体の機能解析や癌の表現型解析のために使用する試薬、プロテオーム解析、トランスクリプトーム解析を行うために必要な試薬の購入に使用する。
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