研究課題
SWI/SNF複合体は、クロマチンリモデリングによる遺伝子発現や遺伝子修復の調節を介して、様々な癌の発症や進展に関わることが知られている。また、代表者はこれまでの研究で、悪性度の高い卵巣明細胞癌細胞株において、SWI/SNF複合体のコア因子であるBrg1のリン酸化レベルが顕著に低下していることを明らかにしている。本年度は、Brg1を欠損する卵巣明細胞癌細胞株であるJHOC5細胞を用いて、Brg1のリン酸化部位について、リン酸化を擬態もしくは電荷を持たないアミノ酸に置換する変異を導入したStable cloneを構築し、これらの細胞株の表現型解析と、プロテオーム・リン酸化プロテオーム・トランスクリプトームの解析を行った。生細胞の比色定量アッセイ (MTSアッセイ)による細胞増殖能の解析を行ったところ、Brg1のリン酸化欠損株では、野生株と比べて細胞増殖能が低下していた。一方で、卵巣明細胞癌が薬剤耐性を示すことの多いシスプラチン・カルボプラチンなどの白金製剤系の抗癌剤存在下での細胞増殖能には、各細胞株間で有意差が認められなかった。また、創傷治癒アッセイにより、野生株と比べてリン酸化欠損株では細胞遊走能が増加し、リン酸化擬態変異株では減少していることが明らかになった。さらに、これらの表現型変化に関わる因子を探索するために、細胞株抽出液を用いたプロテオーム・リン酸化プロテオーム解析を行って、リン酸化部位への変異導入の有無によって変動する、47種類のリン酸化タンパク質を含む308種類のタンパク質を同定した。現在、RNA-seq分析データの解析と、上記のリン酸化プロテオーム/プロテオーム解析結果との比較・照合を進めており、全ての解析で類似のパターンを示す因子や、リン酸化レベルのみが変化する因子を多数見いだしている。り
3: やや遅れている
当初の計画通り、Brg1を欠損する卵巣癌細胞株を用いたBrg1リン酸化部位変異株の構築と、プロテオーム・リン酸化プロテオーム・トランスクリプトームの解析を完了しているが、現在、これらの結果の統合的な解析を進めているところであり、絞り込まれた因子の検証に遅れが生じているため。
上記の結果を基に、遺伝子発現量・タンパク質量が変化していると考えられるものと、タンパク質リン酸化レベルが変化していると考えられるものを絞り込み、それぞれ、抗体等を用いた検証を行うとともに、RNA干渉や薬剤等を用いた機能解明を進めていく予定である。
複数のオミックスデータの解析によって検出される遺伝子・タンパク質の検証や解析をさらに進めるために、研究期間の延長を申請した。
プロテオーム・リン酸化プロテオーム・トランスクリプトーム解析の結果を合わせて絞り込んだ遺伝子・タンパク質について、抗体を用いた検証や薬剤・RNAiなどを用いた機能解析を行うために必要な試薬の購入等に使用する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Immunity
巻: 45 ページ: 319-32
10.1016/j.immuni.2016.07.015
Genes to Cells
巻: 21 ページ: 1059-1079
10.1111/gtc.12403