卵巣明細胞癌 (Ovarian Clear Cell Carcinoma:OCCC)を含む様々な癌において、遺伝子の発現制御や修復に関わるSWI/SNFクロマチン再構成複合体の構成サブユニットの変異や欠失が報告されている。さらに代表者らはこれまで、質量分析計を用いた多反応モニタリング (MRM)法により、OCCCでは、SWI/SNF複合体のコアサブユニットの一つであるBRG1のヒストン結合ドメインにおけるリン酸化レベルが他の組織型の卵巣癌と比べて著しく低下していることを、初めて明らかにしてきた。また、昨年度までに、BRG1のリン酸化修飾部位のセリンをアラニンもしくはアスパラギン酸に置換したリン酸化欠失・擬態変異細胞株を構築し、BRG1のリン酸化部位への変異導入によって、細胞の殖能能や遊走能が変化することを見いだしてきた。さらに、これらの表現型変化に関わるメカニズムを解明するために、リン酸化部位変異細胞株から抽出したタンパク質を用いて、プロテオーム・リン酸化プロテオームの比較定量解析を行い、変異細胞株において顕著な量的変動を示す、多数のタンパク質・リン酸化タンパク質を同定してきた。 本年度は、得られたプロテオーム解析データの詳細な解析と共に、トランスクリプトーム解析を行って、本修飾の有無に依存して発現パターンが変化する遺伝子の網羅的な探索を試みた。結果として、BRG1のリン酸化部位変異導入細胞株では、クロマチン構造の不活性化に関わる因子の存在量やリン酸化レベルが変動していること、さらにこれらの細胞株では、細胞の増殖や遊走に関わる遺伝子の発現レベルに変化の見られることが明らかになった。
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