欠失型mtDNAと野生型mtDNAをヘテロプラスミックに保持する線虫株LB138を用い、個体において欠失型mtDNAの蓄積に関わる因子を調べた。LB138株において、線虫のTFAMホモログであるHMG-5やその他関連因子のノックダウンをL1幼虫期から行い、当世代における欠失型mtDNA含有率への影響を調べた。その結果、HMG-5のノックダウンで欠失型mtDNAの含有量が有意に減少することがわかった。したがってHMG-5は個体において変異型mtDNAの蓄積に影響を与えることが明らかになった。この結果は、最近Nature誌に報告された、有害型mtDNAを安定に保持するためにはミトコンドリアストレス応答系の活性化、並びにミトコンドリア生合成系の因子が必要であるという結果と一致していた。複製阻害剤でmtDNAのコピー数を減少させても欠失型mtDNA含有率に大きな差は見られないことから、詳細な分子メカニズムは不明であるが、HMG-5による欠失型mtDNAの安定な保持には、mtDNA安定化によるmtDNAコピー数維持とは異なる維持機構が関わることが示唆された。 一方でmtDNAヌクレオイドの構成維持やミトコンドリアの形態維持に関わるProhibitin 1 (PHB1)をLB138株でノックダウンしたところ、欠失型mtDNAの含有量に有意な差は見られなかった。PHB1はミトコンドリアオートファジー(ミトファジー)のレセプターであるPHB2の安定化因子であることから、ミトファジーにも重要である。実際にPHB1のノックダウン個体ではミトファジーの阻害時に見られるmtDNAコピー数の上昇が見られている。したがって、PHB1を介したミトファジーの阻害が欠失型mtDNAの蓄積へ与える影響は小さいと考えられた。
|