研究課題
本研究では、IL-1受容体ファミリーに属するST2が自己免疫疾患や癌疾患の治療標的分子となりうるか明らかにすることを目的とする。これまでに多発性硬化症モデルの病態形成が抗ST2ブロッキング抗体により抑制されることを明らかにしている。そこで、樹状細胞によるナイーブT細胞の活性化にST2が必要とされるか明らかにするため、MOGペプチドで免疫したマウスに抗ST2ブロッキング抗体を投与した後、リンパ節細胞をMOGペプチドで再刺激した。コントロール抗体投与群と抗ST2ブロッキング抗体群の間でリンパ節細胞の増殖やサイトカイン産生に差は認められなかったことから、ST2はリンパ節におけるナイーブT細胞活性化以降の段階に関わっていると考えられる。また、IL-33以外のST2リガンドを同定するためIL-33欠損マウス由来のある組織のライセートでマスト細胞を刺激したところ、サイトカイン産生が増加する、すなわちリガンドが含まれていることがわかった。そこで、その組織のタンパク質を高速液体クロマトグラフィーにより分子量ごとに分取し、マスト細胞を刺激した。その結果、ある分画で刺激した場合、マスト細胞によるサイトカイン産生が増加し、この増加は抗ST2ブロッキング抗体により抑制されることがわかった。したがって、本画分にはIL-33以外のST2リガンドが含まれていると考えられる。また、所属研究室で着目している肥満誘導性肝がん形成におけるST2の役割を調べた。IL-33欠損マウスおよびST2欠損マウスでは野生型マウスに比べて肝腫瘍数が低下したことから、IL-33とST2は癌促進的に働くと考えられる。一方、IL-33欠損マウスの肝臓ライセートでマスト細胞株を刺激してもサイトカイン産生は増加しなかったことから、肥満誘導性の肝がん形成においてはIL-33がST2のリガンドとして作用し、腫瘍形成を促進すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
ST2の機能を阻害することで、多発性硬化症等の自己免疫疾患だけでなく、肝がん等の癌疾患の治療につながる可能性があることを示すことができた。また、自己免疫疾患においては新規リガンド、癌疾患においてはIL-33がST2のリガンドとして作用していることを明らかにし、疾患によってリガンドが異なる可能性を示せたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
これまでに、肝臓においてもCD4陽性T細胞の一部がST2を発現することを明らかにしており、CD4陽性T細胞上のST2の機能を解明し、肥満誘導性肝がんの病態形成におけるST2の役割を突き止めたいと考えている。
旅費が発生しなかったため、物品購入に使用いたしましたが、上記の金額を繰り越すことになりました。
平成29年度も、主に物品費として使用する予定ですが、研究成果の発表費用としても使用したいと考えております。
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Cancer Discovery
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10.1158/2159-8290.CD-16-0932
http://www.rs.tus.ac.jp/ohtani-lab/