本研究ではヒトの結核症発症メカニズムを明らかにすることを目的として、ヒトゲノム情報と結核菌ゲノム情報の両面から解析を行う。解析には、研究担当者の研究グループがタイ王国との共同研究により収集したヒトと結核菌両方のゲノムサンプルを有する1330検体の検体バンクを活用する。すでに、ヒトゲノムについては全ゲノム一塩基多型(SNP)情報を取得し、結核菌ゲノムについても全ゲノム配列情報の取得が完了した。これらの情報を相互に解析し、結核症発症リスクとなる宿主遺伝要因と結核菌遺伝要因を同定することを目指した。平成29年度において研究担当者は、結核菌のゲノム情報を考慮したゲノムワイド関連解析の成果をJournal of Human Genetics誌に論文報告した。本論文は、結核症の病原菌である結核菌のゲノム情報を考慮したゲノムワイド関連解析の世界最初の報告例となった。また、ヒトゲノム全域のSNPデータをインピュテーションにより補完し解析した結果、ヨーロッパ人集団及び中国人集団で報告されているクラスIIヒト白血球抗原遺伝子領域において、北京型と呼ばれる遺伝系統の結核菌に対して特異的な発症リスクとの関連を新たに見出した。非北京型と呼ばれる遺伝系統の結核菌感染時の発症リスクにサイトカイン産生を制御するCD53遺伝子領域が関連するという我々の見出した知見と、in vitroの解析において北京型結核菌は非北京型結核菌に比べてサイトカイン産生誘導能が低いという知見を合わせると、サイトカインによる免疫応答が結核症における結核菌の遺伝系統特異的な発症リスクを規定する可能性が明らかとなった。この成果は、結核菌の遺伝的背景の違いを考慮することで初めて見出された成果であり、結核の発症メカニズムを明らかにする上で結核菌ゲノム変異の情報を組み合わせることが重要であることを示した。
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