研究課題
近年、Palindromic AT-rich repeats (PATRRs)と呼ばれるパリンドローム配列が染色体転座を誘発することが知られ、これまでにPATRRを介した染色体転座が数多く報告されている。また以前に私たちは、健常人精子由来のゲノムDNAを鋳型にPATRRを介した転座検出用のPCRを用いて、De novoの染色体転座の検出に成功した。この結果は健常人精子にはDe novoのPATRRを介した染色体転座が数多く含まれていることを意味しており、本研究ではこの転座検出のPCR法を応用して、PATRRを介した染色体転座が、ヒトゲノム中からどのようにPATRR配列を認識し、出会い、そして再結合し転座染色体を生成するのか、発生機序の全貌を解明することを目的とした。本研究を遂行するにあたり、これまで報告されているPATRRを介した染色体転座で、転座検出用のPCRを用いて検出可能なPATRR転座の検出、頻度を算出し、必要な鋳型DNAの量を決定した。またPATRR配列に共通する配列の特徴を調べ、ヒトゲノム中に散在するPATRR配列を増幅するプライマーの設計を行い、健常人精子中に含まれるDe novoのPATRRを介した染色体転座を網羅的に検出する系を確立することに努めた。
3: やや遅れている
本研究を遂行するにあたり、健常人精子中に含まれるDe novoのPATRRを介した染色体転座を網羅的に検出する系を確立することに努めた。ユニバーサルプライマーやハイブリダイゼーション用のオリゴを用いて、転座が発生したPATRRを濃縮しつつ、転座が発生していないIntactなPATRRの量を希釈するストラテジーを考案し、複数のPATRRを介した染色体転座を同時に増幅し、次世代シーケンサーで検出する方法を考案している。現在の方法では、転座産物以外の非特異的な増幅が多く見られ、目的とする転座産物を得るに至っていない。今後は実験方法の改善やアプローチ法の変更が必要であると考えている。また本研究を遂行中に非典型例のde novo転座を検出した。この非典型例の染色体転座から、PATRRを介した染色体転座の発生機序の解明のヒントになり得るか思案してる。
De novoのPATRR転座検出のためのPCRは1分子検出を可能とした高感度の方法で、最も高頻度に発生する転座でさえ1/1000分子以下の頻度で発生するとされており、現在の系では転座産物の濃縮を行うにも量が少なく、また転座を起こしていないPATRRがバックグラウンドとなり、目的とする転座産物が得られず、網羅的転座産物の検出に至っていない。精子中に含まれる転座産物を増やすことは不可能なので、今後は転座産物以外の非特異的な配列によるバックグラウンドを減少させ濃縮の効率化を目指す。具体的には目的とする転座産物以外を切断するようなヌクレアーゼを用いて、PCR増幅できないような処理を行い、またPCRの際にはビオチン標識プライマーを用いて、PCR産物の濃縮効率を上げる。PATRR周辺領域はAT含量に富む配列のため、PCRやシーケンスによる解析が困難であるケースが多い。特に次世代シーケンサーによって読まれたリードをヒトゲノム配列にマッピングするのは困難であることが予想される。そのため得られたPCR産物を1つずつクローニングして解析することも検討する。
人件費に計上した予算が浮いたため。
差引額の47,515円は、主に試薬消耗品として使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
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