研究課題
【研究の背景・目的】甲状腺癌の約90%は高分化癌である乳頭癌で、一般に予後良好である。しかし、一部の乳頭癌は極めて予後不良な未分化癌に進展する(未分化転化)。乳頭癌が未分化癌に進展する分子メカニズムには不明な点が多く、乳頭癌における未分化転化のリスク因子は確立されていない。本研究では未分化転化の前後に生じた遺伝子異常、蛋白発現異常を解析し、各異常が生じたタイミングに注目することで未分化転化のリスク因子の同定を試みた。【方法と研究成果】乳頭癌成分を伴った未分化癌を収集し、乳頭癌、未分化癌の各成分についてBRAF、TERTプロモーター、PIK3CAの遺伝子変異、p53、TTF-1、SWI/SNF複合体の蛋白発現を解析した。本研究では以下の点を明らかにした。① BRAF、TERTプロモーターの各変異は、未分化癌においてそれぞれ91%、95%と頻度が高く、そのほとんどが乳頭癌の段階から生じていた。② PIK3CA変異は未分化癌において33%の頻度で存在した。また、未分化転化の前後どちらでも生じており、時相的に不均一であった。③ p53、TTF-1の発現異常は未分化癌でそれぞれ63%、59%に生じていた。これらの異常はすべて未分化癌成分のみで認められた。④ SWI/SNF複合体蛋白の発現消失は未分化癌の7%に存在した。この異常が生じるタイミングは、未分化転化の前後で不均一だった。⑤ 未分化転化のない乳頭癌92例を対照とした多変量解析で、TERTプロモーター変異は未分化転化の独立したリスク因子であった。【研究の意義】乳頭癌におけるTERTプロモーター変異は、乳頭癌の予後不良因子であるだけでなく、未分化転化の独立したリスク因子であることを世界で初めて明らかにした (国際学術誌に投稿中)。今後、TERTプロモーター変異を用いた乳頭癌のリスク分類、治療の個別化に繋がると期待できる。
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