食道扁平上皮癌は予後不良な悪性腫瘍の一つであるが、特異的な診断マーカーや治療標的分子はまだ同定されていない。SAGE法(serial analysis of gene expression法)は網羅的遺伝子発現解析法の一つであり、CATGから下流10塩基のタグ配列をシークエンスすることで、対応する遺伝子の出現頻度と種類を解析する。長所として定量性、再現性に優れ、SAGEmap databaseの約300種類の細胞/組織のSAGEライブラリーとの直接の比較も可能である。我々はこれまで胃癌を材料にSAGE法を行い、胃癌で発現が亢進している遺伝子としてolfactomedin 4を同定している。 olfactomedin 4はもともとヒトの骨髄細胞からクローニングされ、510個のアミノ酸からなる糖タンパク質をコードしている。これまで胃癌、大腸癌、乳癌、肺癌など、さまざまな癌でolfactomedin 4 の発現異常が報告されているが、食道扁平上皮癌での報告例はまだない。 Western blotによって食道癌細胞株におけるolfactomedin 4の発現を検討したところ、5株中1株に発現が認められた。免疫組織学的検討では、食道扁平上皮癌組織100例のうち17例(17%)においてolfactomedin 4の発現がみられ、腫瘍のT grade (P = 0.0479)、N grade (P = 0.0015)、Stageの進行 (P = 0.0015)と有意な相関が認められた。また、olfactomedin 4を発現している症例は有意に予後不良であった (P = 0.0485)。一方で、食道癌細胞株でolfactomedin 4をノックダウンしたが、増殖能に変化はなかった。以上の結果より、olfactomedin 4の発現は食道扁平上皮癌の進展に関与することが示唆された。
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