研究課題/領域番号 |
15K19056
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
石井 順 杏林大学, 医学部, 助教 (80749599)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内分泌顆粒 / 内分泌腫瘍 / 甲状腺癌 / PROX1 / 転写因子 / マスター遺伝子 |
研究実績の概要 |
1. 研究内容 PROX1が細胞内構造物の一つである内分泌顆粒の形成を制御するマスター遺伝子であるという仮説の検証に、主として甲状腺癌組織/培養細胞を用いて取り組んだ。具体的には、甲状腺癌組織および甲状腺癌培養細胞におけるPROX1発現をRT-PCR法および免疫組織化学的手法で解析し、PROX1発現が内分泌顆粒を持つ甲状腺髄様癌の組織および培養細胞で高く、その他の組織型では低いことを明らかにした。また甲状腺癌培養細胞にPROX1遺伝子を導入することで、内分泌顆粒形成に関わる複数の遺伝子発現が亢進することを明らかにした。さらに、PROX1遺伝子産物である転写因子PROX1が、いくつかの内分泌顆粒関連遺伝子の転写調節領域に結合し得ることを明らかにした。まとめると、PROX1が甲状腺癌の内分泌顆粒形成を転写レベルで制御する機能を持つことが明らかにされた。研究結果は査読付論文で発表した。 2. 研究の意義および重要性 近年、特定の形質発現に関連する一連の遺伝子の発現を制御するマスター遺伝子が多数発見されているが、内分泌顆粒形成のマスター遺伝子は未だ見つかっていない。また、内分泌顆粒は内分泌/神経内分泌系腫瘍を診断する指標の一つであるが、その形成メカニズムは十分に解明されていない。本研究は、内分泌顆粒形成に関わる種々の遺伝子がPROX1遺伝子に制御されている可能性を検討するものであり、その結果は、新たなマスター遺伝子の発見および神経内分泌系腫瘍の新規診断マーカーの発見へと繋がる可能性を秘めており、意義があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究からは、PROX1が甲状腺癌細胞の内分泌顆粒形成に関与していること、またPROX1が甲状腺以外の内分泌系組織(下垂体腺腫)や内分泌系培養細胞(インスリノーマ細胞MIN6, 肺小細胞癌細胞株9株)で高度に発現していることが明らかにされた。PROX1が内分泌顆粒形成に関与するという結果は、主に甲状腺由来の組織および培養細胞を用いた実験から得られたものではあるが、PROX1発現の内分泌腫瘍特異性が培養細胞だけでなく臨床組織検体でも確認されたこと、またPROX1の人為的な発現変化に対応する形で培養細胞における複数の神経内分泌顆粒遺伝子発現が増減したこと、髄様癌細胞ではPROX1ノックダウンに伴い内分泌顆粒が数的に減少したこと、転写因子であるPROX1が内分泌関連遺伝子のプロモーター領域に直接作用していることが実験的に示されたことから、PROX1の発現から機能に至る一連のメカニズムが明らかにされたことになる。また、PROX1の高度な発現が甲状腺以外の内分泌顆粒を有する腫瘍細胞や組織においても確認されたことから、内分泌顆粒に対するPROX1の機能が内分泌系細胞に広く一般的である可能性が示されている。よって、研究は計画に沿う形でおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究はおおむね計画通りに進展しているため、今後は当初の計画通りに研究を推進する。具体的には、PROX1による内分泌顆粒形成が、甲状腺以外の全身の内分泌系組織においても認められる普遍的な現象であるかを確認していく。また、内分泌系腫瘍で高発現するPROX1が、内分泌顆粒形成以外の細胞機能(特に腫瘍細胞の増殖やホルモン産生能など)にも影響を与えているか確認していく。 平成27年度の研究からは新たな課題が見えてきた。甲状腺髄様癌および下垂体腺腫組織におけるPROX1の免疫組織化学的染色性は陽性と判断して差し支えないレベルであったが、同じ内分泌系腫瘍でも褐色細胞腫やインスリノーマ組織における染色性は陽性か陰性か明確に判断できないレベルであった。染色方法や抗体に問題があるのか、あるいは後者ではPROX1発現が実際に高くはないのか、といった点を明らかにしていくことも平成28年度に行うべき課題である。また、PROX1は内分泌系腫瘍以外の癌種においても認められることが多々報告されているが、一般に内分泌系以外の腫瘍で内分泌顆粒が認められることはない。PROX1発現が認められることが、そのまま内分泌顆粒形成に繋がるわけではないのか、あるいはPROX1の絶対的な発現量が原因なのか、内分泌顆粒形成を負に制御するメカニズムの存在によるものなのか、といったことも今後の研究課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、平成27年度の研究が効率的に進展したためである。具体的には、実験への使用を計画していた内分泌系培養細胞株に由来するmRNAおよび蛋白質サンプルの一部が先行研究により調整されており、新規に調整する必要がなかったこと、またPROX1抗体を用いた免疫組織化学実験の条件検討が比較的にスムーズであったこと、困難が予想された恒常的PROX1ノックダウン細胞の樹立が可能であったことなどが挙げられる。平成28年度は研究のさらなる発展を計画しており、種々の消耗品が必要となる予定であるため、次年度使用額を使用させていただきたい。
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次年度使用額の使用計画 |
1. PROX1による内分泌顆粒形成の制御が甲状腺癌以外の内分泌系組織においても認められるか確認する。 2. PROX1抑制が内分泌/神経内分泌系培養細胞のホルモン産生に与える影響をin vitroおよびin vivoの両面から解析する。 3. PROX1抑制が内分泌/神経内分泌系培養細胞の増殖活性に与える影響を増殖アッセイなどにより解析する。PROX1発現が細胞の増殖メカニズムと密接に関係していた場合、移植腫瘍実験を行う。
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