研究課題/領域番号 |
15K19058
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
尾原 健太郎 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (40571724)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 食道癌 / 抗癌剤耐性 |
研究実績の概要 |
ヒト食道扁平上皮癌における抗癌剤耐性機序を解明することを目的として研究を行った。外科手術単独例30例、術前化学療法例30例を用いて、マクロファージの浸潤度や形態的特徴との関連について解析した。汎マクロファージマーカーとして抗CD68抗体、腫瘍の促進に作用するとされるM2型マクロファージのマーカーとして抗CD204抗体を使用して免疫組織化学染色により食道癌組織中のマクロファージ浸潤数を評価した。その結果、術前化学療法群では手術単独群と比較してCD68陽性マクロファージとCD204陽性マクロファージの浸潤数が高かった。組織学的治療奏功度に基づき、術前化学療法群をresponder, non-responderの2群に分類して解析したところ、 non-responder では responder 群と比較して CD204 陽性マクロファージの浸潤数が多い傾向にあった。更に、癌の浸潤部に出現し、上皮間葉転換(EMT)の指標になるとされる簇出(tumor budding)とマクロファージの浸潤数との相関を検討したところ、CD204陽性マクロファージの浸潤が多い症例で tumor budding が多数出現する症例が多い傾向にあることを見出した。以上の結果から、CD204陽性のM2型マクロファージは化学療法耐性に関与している可能性があり、EMTを誘導することにより化学療法耐性を発揮している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マクロファージによる化学療法耐性機序を解明するため、M2型マクロファージの浸潤とADAM分子の発現の相関を見ることを計画しており、まずはヒト食道扁平上皮癌組織の病理切片を用いて免疫組織化学染色により評価する予定としている。プロテアーゼ活性を有する主要なADAM分子の免疫組織化学染色を行うにあたり、その染色条件の決定が順調にいかず、実験のやり直しに思いのほか時間を要した。結果として複数種類の抗体を比較検討することで良好な染色条件を決定することができたため、引き続き症例の集積と発現解析を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト食道扁平上皮癌組織におけるADAM分子の発現と化学療法耐性、M2型マクロファージの浸潤の程度、臨床病理学的因子、病理組織学的特徴ならびに予後との相関を統計学的に解析する。また、ヒト食道扁平上皮癌由来の細胞株およびヒト由来マクロファージを用いての共培養系を確立し、in vitro の系を用いてマクロファージがヒト食道扁平上皮癌細胞に及ぼす化学療法耐性効果とその機序の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
M2型マクロファージによる化学療法耐性機序を解明するため、M2型マクロファージの浸潤とADAM分子の発現の相関を見ることを計画しており、まずはヒト食道扁平上皮癌組織の病理切片を用いて免疫組織化学染色により評価する予定としていた。ADAM分子の免疫染色を行うにあたり、その染色条件の決定が順調にいかず、実験のやり直しに3カ月以上を要した。そのため、予定としていた症例の更なる集積と多数例のヒト食道扁平上皮癌症例を用いた免疫染色、in vitroの検討に遅れが生じ、次年度使用額として繰り越さざるを得ない状況となった。
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次年度使用額の使用計画 |
多数例のヒト食道扁平上皮癌症例での免疫組織化学染色に使用する試薬、細胞培養、マクロファージをM2型マクロファージに誘導するためのサイトカインなどの試薬、RT-PCR法やwestern blot法のための関連試薬や抗体、細胞死の測定キットや各種消耗品の支出に充てる予定である。
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