本研究は、ヒトの腫瘍の中でも最も悪性度が高い脳腫瘍である膠芽腫 (グリオブラストーマ) において、腫瘍内部のheterogeneity (組織内不均一性) と治療抵抗性の関係を明らかにしようとするものである。前年度は、腫瘍内部におけるEGFRおよびその下流に存在するmTORC2シグナル異常のheterogeneityが、がん代謝関連酵素の発現およびヒストンアセチル化で代表されるエピジェネティクス変化と相関していることを明らかとした。 本年度は、膠芽腫細胞株を用いたメタボローム解析により、mTORC2が代謝を活性化させる事で、ヒストンアセチル化の基質となる中間代謝産物アセチルCoAの産生を高めることが分かった。さらには、細胞株を用いた分子生物学的解析により、mTORC2がヒストンアセチル化の修飾酵素である、pyruvate dehydrogenase (PDH)、pyruvate kinase isozyme M2 (PKM2) および class IIa histone deacetylase (HDAC) の核-細胞質内局在を制御することでエピジェネティクス調節を行う、新規の制御機構を明らかにした。ChIP-sequencing法による解析では、mTORC2によるヒストン修飾が、telomerase reverse transcriptase (TERT) をはじめとする遺伝子群を調節し、腫瘍細胞のテロメアおよび未熟性を維持していることを明らかとし、TERTまたはmTORC2を抑制することで腫瘍細胞の増殖を抑制できることを見出した (投稿準備中)。 これらの結果より、悪性脳腫瘍においてmTORC2を標的とした新規の治療戦略を検討することで、腫瘍幹細胞を含めた治療抵抗性因子の克服を目指すことが可能になると考えられる。
|