研究課題/領域番号 |
15K19069
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小林 進太郎 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 特任助教 (00634205)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | フラビウイルス / Rabタンパク質 / 細胞内膜輸送 |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞内膜輸送の制御因子であるRabファミリータンパク質に着目し、蚊媒介性フラビウイルスの細胞外粒子放出機構について解析し、得られた知見から粒子放出機構を標的としたウイルス増殖阻害剤を開発することを目的としている。 Rabタンパク質発現抑制ライブラリーを構築し、ウイルスの細胞外放出に影響するRabタンパク質をスクリーニングした結果、Rab8bの発現が抑制されるとウイルスの放出量が減少することが明らかになった。この結果はRab8b欠損細胞においても確認され、ウイルス感染Rab8b欠損細胞では、細胞内にウイルスタンパク質が蓄積していることも明らかになった。 続いて、蚊媒介性フラビウイルス粒子の細胞内輸送経路を明らかにするために、ウイルス感染Rab8b欠損細胞に対して、様々なオルガネラマーカーとウイルスタンパク質との二重免疫染色を実施した。ウイルス感染Rab8b欠損細胞で観察されたウイルスタンパク質蓄積部位では、リサイクリングエンドソームマーカーであるRab11aやトランスフェリンが局在していた。また、電子顕微鏡を用いて観察では、ウイルス感染野生型細胞に比較して、Rab8b欠損細胞内には多くのウイルス粒子を内包する小胞が多数観察された。これらの結果から、Rab8b欠損細胞ではリサイクリングエンドソームにウイルス粒子が蓄積していることが明らかになった。 これまでの本研究結果から、蚊媒介性フラビウイルスの新生ウイルス粒子は、リサイクリングエンドソームを経由し、Rab8bの働きによって細胞外に放出されることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究計画では、蚊媒介性フラビウイルス粒子の細胞外輸送系を明らかにする予定であった。これまでの研究により、蚊媒介性フラビウイルスはリサイクリングエンドソームを経由することを明らかにした。この結果を基に、リサイクリングエンドソーム内におけるウイルス因子と宿主因子の関わりを詳細に解析することで、蚊媒介性フラビウイルス粒子の細胞内輸送の分子機構を明らかにすることが可能となった。 また当該年度の2点目の検討事項である、輸送小胞内において相互作用しているウイルス因子および宿主因子の同定については、リサイクリングエンドソームを精製する方法を検討中である。抗体を用いた輸送小胞のアフィニティ精製法により、リサイクリングエンドソームにウイルスタンパク質が局在することが生化学的手法を用いても確認できたが、その後の研究に使用可能な量を得ることが困難であることが明らかとなった。現在、超遠心機を用いてリサイクリングエンドソームを精製する方法を検討している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、ウイルスタンパク質を含むリサイクリングエンドソームの精製方法を確立した後に、細胞生物学的、生化学的手法を用いて、相互作用しているウイルス因子および宿主因子を同定する。電子顕微鏡を用いたこれまでの結果から、ウイルスは粒子構造を形成した状態で、リサイクリングエンドソーム内に存在することが明らかになっており、ウイルス因子はウイルス粒子の最表面を構成するEタンパク質または、prMタンパク質である可能性が高い。これらのタンパク質の着目し、リサイクリングエンドソーム画分内でこれらのウイルスタンパク質と相互作用する宿主因子を免疫沈降および質量分析法により同定する予定である。 同定した宿主因子とグルタチオンS-トランスフェラーゼなどの標識タンパク質との融合タンパク質発現プラスミドを作製し、このプラスミドを鋳型に変異体の作製を試みる。ウイルス感染細胞のライセートと精製した発現タンパク質を反応させ、pull-down法などを用いることで、ウイルスタンパク質との結合領域を明らかにする。 相互作用を標的とした蚊媒介性フラビウイルス感染症治療法について検討するために、同定した結合領域を基に、細胞膜透過ドメインを付加した融合ペプチドを合成する。合成ペプチドのウイルス粒子放出抑制効果を培養細胞と感染モデルマウスを用いて検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の進行の都合により、当該年度に実施する予定の実験を次年度に持ち越したため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究を申請時の計画に従い実施し、平成27年度の研究計画の結果生じた使用額については、次年度研究費と合わせ、必要な試薬、消耗品費として使用する。また、研究成果を報告できる場合、国内学会参加の旅費として使用する。
|