本研究では、細胞内膜輸送の制御因子であるRabファミリータンパク質に着目し、蚊媒介性フラビウイルスの細胞外粒子放出機構について解析し、得られた知見から病態形成機構との関係性について考察し、さらに粒子放出機構を標的としたウイルス増殖阻害剤を開発することを目的としている。 Rabタンパク質発現抑制ライブラリーを構築し、ウイルスの細胞外放出に影響するRabタンパク質をスクリーニングした結果、Rab8bの発現が抑制されるとウイルスの放出量が減少することが明らかになった。この結果はRab8b欠損細胞においても確認され、ウイルス感染Rab8b欠損細胞では、細胞内にウイルスタンパク質が蓄積していることも明らかになった。 続いて、蚊媒介性フラビウイルス粒子の細胞内輸送経路を明らかにするために、ウイルス感染Rab8b欠損細胞に対して、様々なオルガネラマーカーとウイルスタンパク質との二重免疫染色を実施した。ウイルス感染Rab8b欠損細胞で観察されたウイルスタンパク質蓄積部位では、リサイクリングエンドソームマーカーであるRab11aやトランスフェリンが局在していた。また、電子顕微鏡を用いた観察では、ウイルス感染野生型細胞に比較して、Rab8b欠損細胞内には多くのウイルス粒子を内包する小胞が多数観察された。これらの結果から、蚊媒介性フラビウイルスの新生ウイルス粒子は、リサイクリングエンドソームを経由し、Rab8bの働きによって細胞外に放出されることが明らかになった。 本研究から蚊媒介性フラビウイルスはリサイクリングエンドソームを介した物質の輸送機構を利用していることが示唆され、ウイルス粒子輸送に関わる宿主因子などの詳細を明らかにすることで、ウイルス増殖を抑制する治療法の開発につながることが予想された。
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