研究課題
まず始めに、腫瘍浸潤部位のマイクロアレイ解析を行うため、レーザーマイクロダイセクションの手技の確立を行った。マウスグリオーマ組織の凍結切片を作製し、腫瘍周辺部、腫瘍中心部および正常脳領域部からマイクロダイセクションにて組織片を回収し、RNA抽出を行い、十分量のRNAを回収できるサンプル量とその技術の確立に成功した。その後、腫瘍浸潤部におけるガングリオシドGD3の発現レベルを観察するため、腫瘍形成誘導後一週間後のグリオーマ組織の凍結切片を作製し、抗GD3抗体を用いて、免疫染色を行ったところ、GD3の発現レベルと発現部位に大きな個体差が観察された。ここで、GD3発現グリオーマ浸潤部位のマイクロアレイ解析を行うためには、より詳細なGD3発現の時空間的解析が必要であると判断した。そこでグリオーマ浸潤部位のマイクロアレイ解析は行わず、GD3合成酵素遺伝子欠損マウスおよび野生型マウスの腫瘍形成誘導後二週間後のグリオーマ組織を用いて、マイクロアレイ解析を行った。結果から、GD3合成酵素遺伝子欠損マウスでは発現せず、野生型マウスのみで発現が観察された特徴的な遺伝子群を同定した。さらにGD3の発現に依存した遺伝子を明らかにするため、GD3合成酵素遺伝子欠損マウスのグリオーマより調整した初代培養グリオーマ細胞と、GD3合成酵素遺伝子を強制発現させたGD3合成酵素遺伝子欠損マウス由来初代培養グリオーマ細胞を比較することにより、グリオーマ細胞において、GD3の発現に依存して発現誘導される3つの遺伝子、Apitd1、Tslp、Mmp12を同定した。
3: やや遅れている
8匹のマウスから作製した、腫瘍形成誘導後一週間後のグリオーマ組織の凍結切片を用いてガングリオシドGD3の発現解析を蛍光免疫組織染色で行ったところ、GD3の発現レベルと発現部位において、大きな個体差が観察された。これには腫瘍発生部位や、発生時期、また試料作製部位の影響があると考えられた。よってグリオーマ浸潤部位におけるガングリオシドGD3の機能解析を正確に行うためには、より詳細なGD3の時空間的発現解析が必要である。当初の計画では、初年度にグリオーマ浸潤部位におけるGD3の機能解析を行う計画だったが、GD3の発現パターンに想定を超えた個体差がみられたことにより、計画が遅れている。現在、より詳細なグリオーマ発生初期におけるGD3の発現解析を時空間的に行っている。一方で、腫瘍形成誘導二週間後のグリオーマ組織を用いたマイクロアレイ解析、また初代培養グリオーマ細胞を用いたqRT-PCRから、GD3発現に依存して発現誘導される新規遺伝子群の同定に成功している。またGD3またはGD2を標的とした in vivo EMARS についても、プロトコールの最適化に取り組んでいる。これらの点においては、進展がみられる。同定された3つの遺伝子、Apitd1、TslpおよびMmp12については、すでに発現ベクターの構築を完了しており、初代培養アストロサイトまたは初代培養グリオーマ細胞を用いた遺伝子機能解析に取り組んでいる。
まずGD3発現にコントロールされていると考えられる3つの遺伝子、Apitd1、Tslp、Mmp12の機能解析を行う。作製した各々の発現ベクターを用いて、初代培養アストロサイトおよび初代培養グリマーマ細胞で各々の遺伝子を強制発現し、細胞増殖能や運動能、浸潤能を計測する。またそれら遺伝子についてグリオーマ組織における発現解析を行い、グリオーマの発生・進展における発現レベルの変化および発現部位の詳細を明らかにする。さらにRNAiによるノックダウン、CRISPR/Cas9によるノックアウトを初代培養アストロサイトまたは初代培養グリオーマ細胞で行い、Apitd1、Tslp、Mmp12のグリオーマにおける機能を明らかにする。一方で、GD3発現下におけるApitd1、Tslp、Mmp12の発現調節メカニズムを転写因子に注目して解析する。まず文献とマイクロアレイ、qRT-PCRの結果より発現調節に関与すると考えられる転写因子を絞り込む。その後、候補転写因子を、初代培養アストロサイトおよび初代培養グリオーマ細胞に強制発現させ、遺伝子群の発現誘導を明らかにする。さらにChIP-PCRとLuciferase assayを行い、転写因子による遺伝子群の発現誘導メカニズムの詳細を明らかにする。一方で、腫瘍形成誘導後一週間後のグリオーマ組織の凍結切片を用いて、in vivo EMARSを行い、GD3およびGD2と協調する分子を同定し、その分子機能を解析する。
実験計画がやや遅れているために、物品・消耗品の購入が計画より少なかったため。また次年度における研究の発展を見越して、物品・消耗品の購入を抑えたため。
生化学および分子生物学実験の物品費や消耗品の購入費に使用する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Glycobiology
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