研究課題
免疫増強剤、すなわち免疫アジュバントの作用機序を解明することにより、癌や感染症など、種々の炎症性疾患に対する新しい治療法の開発に貢献することが期待される。コレラ毒素(Cholera toxin:CT)は強力な粘膜免疫アジュバントとして知られているが、その作用機序は不明な部分が多い。我々は、マクロファージ細胞株において、CTがLPSと協調して炎症性サイトカインIL-1betaの産生を誘導すること、この誘導が既報と異なるユニークな機構であることを示唆する知見を得た。この分子機構を明らかにするため、網羅的遺伝子発現解析(トランスクリプトーム)と網羅的代謝産物解析(メタボローム)のオミックス解析を行った。その結果、CT刺激により、アルギナーゼ-1(Arginase I:ArgI)の遺伝子発現レベルの上昇、細胞内アルギニンレベルの低下、そしてアルギニン代謝産物であるオルニチンの増加が認められた。このことから、CT刺激した細胞においてArgIを介したアルギニン代謝経路が活性化していることが示唆された。本研究では、この細胞内代謝経路依存的なIL-1beta産生誘導機構を明らかにする。平成27年度ではこれらの細胞内代謝経路に関与する機能分子候補の検討を行った。その結果、ArgIの阻害剤の添加、あるいはsiRNAによるArgIのノックダウンにより、CTとLPSによる協調的なIL-1beta産生が障害されることを見出した。以上の結果から、CTとLPSによる協調的なIL-1beta産生誘導に、ArgIを介したアルギニン代謝経路が関与することが示唆された。現在、ArgIなどの種々候補分子の遺伝子欠損マウスの解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、CTによる細胞内代謝経路依存的なIL-1beta産生誘導機構を明らかにすることである。平成27年度ではアルギニン代謝に関与する機能分子の検討を計画していた。当初の計画通り、アルギニン代謝に関与する機能分子としてArgIを同定した。以上の観点から、本研究は概ね順調に進展していると判断している。
平成28年度では、当初の計画通り、種々機能分子の遺伝子欠損細胞株および遺伝子欠損マウスを作成あるいは入手して、候補分子のin vitro(ex vivo)およびin vivoの検討を行う予定である。in vitro(ex vivo)の解析として、マウス腹腔浸潤細胞や骨髄由来マクロファージなどの種々の組織のマクロファージを用いて、CTとLPSによるIL-1beta産生能を調べる。in vivoの解析として、CTとLPSを腹腔内に投与し、腹水または血清中のIL-1betaレベルを解析する。また、CTと抗原の経口投与による抗原特異的免疫グロブリン産生誘導やT細胞の活性化、抗腫瘍免疫応答の解析なども計画している。
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