研究課題/領域番号 |
15K19083
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 瑞希 旭川医科大学, 医学部, 助教 (00632126)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 寄生虫 / エキノコックス / 補体 |
研究実績の概要 |
これまでに申請者がクローニングした3つの多包虫セリンプロテアーゼインヒビター(SerpinEmu, Serpin2Emu, Serpin3Emu)について、大腸菌発現系および小麦胚を用いた無細胞系にて組み換えタンパク質の発現を行った。これら3つの組み換えタンパク質について、補体活性測定キットを用いてヒトの補体活性経路阻害能を有するか検討した。しかしながら、これらのタンパク質は古典経路、代替経路、レクチン経路のいずれも阻害しなかった。これらはすべて多包虫germinal layerに局在し、分泌タンパク質に含まれることがわかった。これらの分子の機能は不明であるが、多包虫における新規分子であるため国際誌に報告した(Sasaki and Sako 2017)。 多包虫においてセリンプロテアーゼインヒビター分子は上述の3つのみしか見出されず、これらは宿主の補体経路を阻害しないことが分かった。一方で、多包虫のExcretory-secretory(ES)タンパク質は代替経路とレクチン経路、細胞内可溶性タンパク質は古典経路とレクチン経路を阻害することを見出した。今後は、とくに虫体外に分泌されるESタンパク質中の補体活性阻害分子の同定を目標にする。 また、セリンプロテアーゼインヒビターの機能については、条虫類における遺伝子ノックアウトあるいはノックダウンの手技が確立されていないため解析が難しい。これらの技術の開発のため、実験に用いられる条虫Hymenolepis microstomaのRNAiを試みている。まず、オンコスフェーラからのin vitro培養系を確立した。H. microstoma Wnt遺伝子のdsRNAを作成した。今後、これらを用いてRNAiの技術を確立するとともに、in situ hybrydization法による発現の観察を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、3つの多包虫セリンプロテアーゼインヒビター(SerpinEmu, Serpin2Emu, Serpin3Emu)の補体経路阻害能を検討することができた。しかしながら、これらの分子は宿主の補体を阻害しないことが分かったため、今後、多包虫分泌タンパク質中から新たなターゲット分子を探索する必要が生じ、発育の遅い多包虫の分泌タンパク質回収に時間を要している。さらに、3つのセリンプロテアーゼ分子は多包虫のgerminal layer および分泌タンパク質中に局在することが確認され、これらのターゲットとなる分子の特定のため、こちらも分泌タンパク質および虫体タンパク質の回収の必要がある。とくに、Serpin2Emuは石灰小体に局在が見られるため、未だ知られていない石灰小体の働きの解明につながる可能性がある。 昨年度の結果から、条虫類のRNAiには成虫ではなく孵化したオンコスフェーラへの遺伝子の導入が適していると考えられた。今年度はH. microstoma の発育段階で発現すると推測されるWnt遺伝子のdsRNAを作成した。また、RNAiの評価のため、これらの遺伝子発現のin situ hybridization法による検出を試みたが、ペルオキシダーゼとDABを用いた発色系では局在の特定が困難であった。今後、蛍光色素を用いた高感度の検出法を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、液体クロマトグラフィーにより多包虫分泌タンパク質を分離し、この中から補体活性阻害分子を探索する。補体阻害活性の評価は市販のELISAキットを用い、古典経路、代替経路、レクチン経路のそれぞれについて調べる。一方、これまで同定した多包虫セリンプロテアーゼインヒビターについては、免疫沈降法を用いてターゲットとなるプロテアーゼを特定する。プロテアーゼは虫体自身あるいは宿主のいずれの可能性もある。現在、これらの実験に使用する多包虫の分泌タンパク質の回収を急いでいる。 また、今年度はH. microstoma の発育段階で発現すると推測されるWnt遺伝子のdsRNAを作成したが、実際にオンコスフェーラの各発育ステージでどのような遺伝子が発現しているかは不明である。発生に必要と推測される遺伝子に加え、幼虫の発育ステージによる遺伝子発現をRNAseqにより定量したいと考えている。これらの中から、発現量が多く、発生に重要と思われる遺伝子をRNAiのポジティブコントロールの候補にする。さらに、in situ hybridization法については、チラミドによる増感システムを用いることで、遺伝子発現の詳細な局在を観察する方法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
組み換えタンパク質の補体活性阻害作用が見られなかったため、分泌タンパク質から新規分子を探索する必要が生じたため、虫体タンパク質の回収のため研究に遅れが生じている。さらに、申請者は昨年病気により学会等に出席することができなかったため、旅費としての使用がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
クロマトグラフィーによる分離のための試薬購入、補体活性測定キット等の試薬購入に使用する。さらに、RNAi法確立のため、遺伝子導入試薬を購入する。また、RNAseqの受託解析に使用する。その他、学会発表のための旅費とする。
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