研究課題
蚊やマダニは人畜を吸血する際にウイルスなどの病原体を媒介する、公衆衛生の重要な節足動物である。これら節足動物によって媒介される病原ウイルスは節足動物媒介性ウイルスArthropod-borne virus(アルボウイルスArbovirus)と総称され、世界中で広く問題となっている。ウイルスは細胞に感染する際、自身の外皮蛋白質と細胞表面の受容体蛋白質とを連結させて結合する。アルボウイルスの場合、脊椎動物、節足動物に類似またはそれぞれに異なる受容体を利用している。例えば、C 型レクチンや熱ショック蛋白質は脊椎動物と節足動物で高度に保存され、アルボウイルスの受容体として機能している。その他、TIM 蛋白質やインテグリン、ラミニン結合蛋白質、G タンパク質共役受容体などが脊椎動物細胞において、プロヒビチンが昆虫細胞において受容体として機能すると考えられている。日本脳炎ウイルスJapanese encephalitis virus (JEV) はフラビウイルス科フラビウイルス属に属し、我が国にも常在する代表的なアルボウイルスである。JEV は豚や鳥を増幅動物とし、蚊(主にコガタアカイエカ)によって媒介される。我々は、JEVの感染機序について研究を行う過程で、JEVエンペロープ蛋白質(E)のアミノ酸配列387-399番目に該当するRGD領域(JEV_RGD)が、蚊細胞への効率的な感染に重要な役割を担う可能性があることを見出した。そこで本研究では、このJEV_RGDに着目し、(1)その機能の解明と、(2)JEV_RGDと相互作用する蚊細胞受容体の同定を行い、JEVの蚊細胞への感染機序の解明を目指す。
3: やや遅れている
(1) JEV_RGDの機能解析;JEVの細胞馴化へ伴う遺伝子変異について解析を行った結果,E蛋白質上のRGD領域が脊椎動物細胞への馴化でのみ変異することを見出した.そこで、脊椎動物の培養細胞への馴化によって得られたJEV_RGD変異株と親株の性状(培養細胞での増殖性、プラークサイズ)と比較することにより、細胞感染におけるJEV_RGDの機能に関する知見を得ることを試みている。これまでのところ、各性状において有意な差は認められていない。(2) JEV_RGDと相互作用する蚊細胞受容体の同定;JEV_RGD領域はE蛋白質の外部ドメインであることから,この領域が細胞接着因子として機能している可能性が考えられる.そこで,現在,このJEV_RGDと相互作用する、蚊細胞に特異的な受容体の同定を試みている.JEV_RGDを含むペプチド(23aa)をGST-tag融合蛋白質として大腸菌発現系により人工合成し、精製後、フローサイトメーターを用いて合成ペプチドの培養細胞に対する吸着性を調べた。その結果、合成ペプチドは脊椎動物細胞への吸着は認められたが、蚊細胞への吸着は認められなかった。
(1) JEV_RGDの機能解析;これまでのところ、培養細胞での増殖性ならびにプラークサイズについて、JEV_RGD変異株と親株で意な差は認められていない。そこで、今後はさらに変異の進んだ株を選抜して比較解析を行い、親株と変異株とで性状の違いを見出すことを試みる。(2) JEV_RGDと相互作用する蚊細胞受容体の同定;GST-tagを融合させたJEV_RGD合成ペプチド(23aa)は、脊椎動物細胞への吸着は認められたが、蚊細胞への吸着は認められなかった。このことから、実験に供試する合成JEV_E蛋白質に細胞吸着能を付与するためには、RGD領域を含むさらに広いペプチド領域や、蛋白質の立体構造が重要である可能性が示唆された。そこで、次に、細胞への感染・侵入に重要な役割を果たすと考えられているDomain III全体に該当するペプチド(103aa)を人工合成し、実験に供試することを試みている。
学会参加の旅費を他の費用から捻出したため
試薬等の購入費に充てる
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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