研究課題
デング熱やジカ熱、ダニ媒介性脳炎など、蚊やマダニなどが媒介する節足動物媒介ウイルス感染症(アルボウイルス感染症)は世界で広く問題となっている。我が国に常在するアルボウイルスの一つ、日本脳炎ウイルスJapanese encephalitis virus (JEV) は、豚や鳥を増幅動物とし、蚊(主にコガタアカイエカ)によって媒介される。しかし、蚊のJEV感染における分子基盤についてはほとんど明らかになっていない。我々は、JEVの感染機序について研究を行う過程で、JEVエンペロープ(E)蛋白質のRGD領域(JEV_RGD)が、蚊細胞への効率的な感染に重要な役割を担う可能性があることを見出した。そこで本研究では、このJEV_RGDに着目し、(1)その機能の解明と、(2)JEV_RGDと相互作用する蚊細胞受容体の同定を行い、JEVの蚊細胞への感染機序の解明を目指す。前回、JEV_RGDを含むペプチド(23aa)を人工合成し、培養細胞に対する吸着性を調べた結果、合成ペプチドの脊椎動物細胞への吸着は認められたが、蚊細胞への吸着は認められなかった。そこで今年度は、JEVのウイルス様粒子(Virus-like particles; VLPs)を作製し、JEV_VLPのRGD変異体における細胞吸着性について検討した。
2: おおむね順調に進展している
2009年に宮崎県の感染飼育牛から分離されたJEV/Bo/Miyazaki/1/2009株をベースに、JEV_VLPsを作製することに成功した(JEV_WT)。次に、JEV/Bo/Miyazaki/1/2009株の脊椎動物細胞への連続継代で生じたJEV_RGDの変異体、RGN、RGGに加え、RGD欠損体(ΔRGD)、アラニン置換体(AAA)について、それぞれPCRにより変異を導入し、JEV_VLPsの作製を試みた。その結果、JEV_RGN、JEV_RGG、JEV_AAAについては、遺伝子導入細胞から培養上清中への出芽が認められたが、JEV_ΔRGDについては、遺伝子導入細胞での発現は認められたものの、培養上清中への出芽は認められなかった。次に、作製したJEV_VLPsのうち、JEV_WTおよびJEV_AAAについて、フローサイトメーターを用いてVero細胞(サル腎由来)、C6/36細胞(ヒトスジシマカ由来)、CTR細胞(コガタアカイエカ由来)に対する細胞吸着を調べた。その結果、いずれの組み合わせにおいてもJEV_VLPsの細胞吸着が認められた。
JEV_VLPsによるアッセイ法を確立することに成功した。JEV_VLPsのRGD領域に変異を導入し、フローサイトメーターで細胞吸着を調べたところ、脊椎動物細胞、蚊細胞のいずれにおいてもJEV_VLPの細胞吸着は認められた。今回は高濃度のJEV_VLPsを供試して細胞への吸着性を確認したので、今後は濃度を検討して解析データを得ることと、セルエライザ法による定量的な解析を行う。また、RGD領域を軸に、変異領域を広げたJEV_VLPs変異体の作製も検討している。
学会参加のための国内旅費を他の研究費より捻出したため
試薬等の物品購入に充てる
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件)
Journal of Veterinary Medical Science
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
doi: 10.1292/jvms.17-0052
巻: 79 ページ: 343-349
doi: 10.1292/jvms.16-0538
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