研究課題/領域番号 |
15K19085
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
井上 信一 杏林大学, 医学部, 講師 (20466030)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マラリア / γδT細胞 / 免疫記憶 |
研究実績の概要 |
免疫記憶は生体による病原体感染防御にとって必須の現象であるものの、マラリアに対する免疫記憶の形成・維持機構はほとんど分かっていない。したがって、如何にしてマラリア免疫記憶機構が働いているのかを解明することは、マラリア研究において極めて重要な課題である。本研究は、γδ T細胞の機能解析を基軸としてマラリア免疫記憶機構の分子基盤を解明することを目的としている。 まず、弱毒株と強毒株のマウスマラリア原虫感染を組み合わせた免疫記憶実験系において、抗体によるγδ T細胞除去をおこない、免疫記憶の形成・維持にγδ T細胞が重要であるのか検証した。弱毒株の感染後90~120日目に抗体によりγδ T細胞除去をして、さらにその60日後に強毒株のチャレンジ感染をすると、コントロールと比較してパラシテミアの増加割合が高くなった。この結果は、免疫記憶細胞の維持にγδ T細胞が重要な働きを担っている可能性を示唆するものである。 さらに、γδ T細胞が免疫記憶の成立・維持に及ぼす効果に関与する分子の特定するために、非感染マウスと弱毒株マラリア原虫の感染耐過マウス由来のγδ T細胞をフローサイトメトリーで単離し、マイクロアレイにより網羅的な遺伝子発現解析をおこなった。また、各分化段階のB細胞と抗体産生細胞に対するγδ T細胞の影響の解明するため、弱毒株マラリア原虫の感染前後の脾臓のナイーブB細胞、活性化B細胞やマラリア原虫特異的な抗体産生細胞の細胞数について、フローサイトメーターやELISPOTを用いて解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
γδ T細胞の機能解析を基軸としてマラリア免疫記憶機構の分子基盤を解明することを目的とし、本年度は、下記のように実験を進めた。 (1) 弱毒株マラリア原虫(XAT原虫)感染後のマウスにおける原虫特異的抗体産生能力を経時的にELISA解析したところ、XAT感染後120日目においても血漿中の抗体産生量は高値を維持していた。さらに、脾臓と骨髄における抗体産生細胞(ELISpot)、記憶B細胞(ELISpot)を経時的に解析したところ、抗体産生細胞は感染当初に脾臓に多く、感染120日後に骨髄における割合が増加することが分かった。ただし、脾臓内にも多数の長期生存形質細胞が維持されていた。一方の記憶B細胞は、感染120日目に、骨髄と脾臓では同程度の割合で存在し、総数としては脾臓の方が多いという結果だった。さらに、XAT原虫感染後、特異的抗体によるγδT細胞除去をおこなったマウス群とγδT細胞除去をしないマウス群に分け、両群における原虫特異的抗体産生能力を解析したが、ELISAとELISpotl解析ともに、両者で大きな変化が見られなかった。したがって、γδT細胞は、記憶B細胞よりも記憶T細胞に影響を与える可能性が考えられた。 (2)γδ T細胞欠損マウスにおいても、弱毒株マラリア原虫の感染後に抗マラリア薬で治療することで、一定のマラリア免疫記憶を成立させることができることを発見した。しかし、野生型マウスの弱毒株マラリア原虫感染耐過マウスに比べると、その免疫記憶能は低いことが分かった。そこで、治癒後の感染耐過マウスのγδ T細胞において優位に発現する遺伝子群のある候補遺伝子のタンパク質をこの感染耐過γδ T細胞欠損マウスに投与したところ、若干の免疫記憶能力の上昇が見られた。今後、ウイルスベクター感染による強制発現によって免疫記憶能の上昇が見られるのかを確認する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、想定の範囲内で研究を進める事が出来ている。今後も、次年度の研究計画にのっとり研究を遂行していく。ただし、研究経過からγδT細胞は免疫記憶B細胞への維持に関与はしていない可能性を示唆する結果が得られた。ただし、免疫記憶B細胞の分化形成に関与している可能性は残っているため、引き続き研究を進めていく。さらに、免疫記憶CD4+T細胞への関与が分かっていないので、引き続き解析を続ける。マラリア免疫記憶にγδ T細胞が重要な働きを担っていることを示すデータを得ていることから、その機能に関与する因子を特定することが、本研究の目的達成に重要となってくる
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が201,651円となってしまったが、試薬のキャンペーン品を購入することで、予想よりも使用額が抑えられたことが要因である。したがって、ほぼ計画通りに使用出来たと考えている。不要な物品購入をして残高を0円調整しなくても、次年度に繰り越して使用出来ることが科研費基金化のメリットの1つであると理解しているので、その制度を利用させていただいた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、未使用額分を高額な物品費(抗体関連試薬の購入分)に当て、より有効的に使用出来ると考えている。
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