赤痢アメーバは、その生活史を通じて重要な特殊化したミトコンドリア“マイトソーム”を持つが、その分裂メカニズムは未解明である。一方、ヒトなどでは、ミトコンドリア外膜上にリクルートされたDynamin-related protein(DRP)がホモ複合体を形成し、その後膜を切断すると考えられている。本課題では、赤痢アメーバに存在する4種類のDRP(EhDrpA ~ EhDrpD)の解析を中心に、創薬標的も視野に入れたマイトソーム分裂メカニズムの解明を目指した。 分子系統学的解析において、EhDrpAとEhDrpB、EhDrpCとEhDrpDの2グループに分類でき、かつEhDrpAとEhDrpBが遺伝子重複によって獲得されたことが強く示唆された。エピトープタグを用いた局在解析では、EhDrpAとEhDrpBは主に細胞質(一部はマイトソーム)に、EhDrpCとEhDrpDは核に局在した。機能不全型DRPのドミナントネガティブ効果を用いた解析において、変異型のEhDrpAあるいはEhDrpBを発現した際にのみ、顕著なマイトソームの伸長が観察された。このような形態変化は、EhDrpAあるいはEhDrpBの発現抑制株においても同様に観察された。以上の結果から、EhDrpAとEhDrpBがマイトソームの分裂に関与すると考えられた。さらに、これらのDRPをマイトソーム膜上へとリクルートする受容体の同定を目的として、免疫沈降解析を行った。その結果、受容体の同定には至らなかったものの、EhDrpAとEhDrpBが1:2~3の比率でヘテロ複合体を形成することを見出した。 現在のところ、EhDrpAとEhDrpBが形成するヘテロ複合体の生物学的意義は不明である。しかしながら、本課題で見出されたヘテロ複合体形成は、他種生物、特に宿主となるヒトのミトコンドリア分裂DRPからは見出されていない現象である。
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