研究課題/領域番号 |
15K19088
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
青沼 宏佳 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (60451457)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マゴットセラピー / 衛生動物 |
研究実績の概要 |
マゴットセラピー(Maggot Debridement Therapy: MDT)とは、ヒロズキンバエ幼虫が患者の壊死組織だけを摂食する性質を利用し、人体の難治性創傷を治療する方法である。多くの症例で効果を上げているが、そのメカニズムの詳細は未解明であり、緑膿菌感染潰瘍などの症例ではその効果が低いなど、慎重使用例も存在する。本研究では、適用範囲が広く短期間で高い効果を上げるマゴットセラピー開発に向けた基盤として、ヒロズキンバエ幼虫(マゴット)の摂食量および摂食対象を改良した遺伝子組換えマゴットの作出を柱とする。 平成27年度はまず、ヒロズキンバエの嗅覚と摂食行動の相関に着目し、解析を実施した。様々な腐肉を摂食対象としていると推測される野外採集系統ヒロズキンバエと、実験室内において牛肉豚肉飼料で継続的に飼育している実験室系統ヒロズキンバエについて、その嗅覚の違いに注目した。飼料に対する順化は様々な動物で知られているが、これには嗅覚の変化が関わると推測される。野外から採集したヒロズキンバエを、それぞれの採集群ごとに交配して系統化をおこなった。ヒロズキンバエの種同定は、形態学的分類法および各種遺伝子の配列を基におこなった。これにより野外採集ヒロズキンバエ3系統の確立に成功した。これらの野外系統と、実験室維持系統1系統を用い、嗅覚関連遺伝子の比較を実施した。特に、全ての嗅覚受容細胞で発現する嗅覚受容体遺伝子に注目し、その遺伝子配列を比較した。その結果、アミノ酸配列は全ての系統で保存されていた。つまり、嗅覚受容体遺伝子は高く保存されており、摂食対象の違いによる多様性はみられなかった。今回得られた嗅覚受容体遺伝子配列を基に、今後遺伝子組換えヒロズキンバエの作出へと応用する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画では、遺伝子改変技術や遺伝子組換え技術を用いて、新たなヒロズキンバエ系統を作出する。このためには、ヒロズキンバエ受精卵への微量注入の技術および系統作出の技術の確立が不可欠である。しかし、ヒロズキンバエ受精卵への微量注入は世界的にも例が少なく、技術確立に予定以上の時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、適用範囲が広く短期間で高い効果を上げるマゴットセラピー開発に向けた基盤として、多くの細菌と壊死組織を積極的に摂食し、自身の細菌感染に強いマゴットを作出することを柱としている。このようなマゴット系統作出のため、今後以下のマゴットの作成を計画している。 ヒロズキンバエの嗅覚受容体遺伝子は、幼虫では2齢時に最も発現量が多く、1齢および3齢では発現量が低い。2齢幼虫は、最も摂食量が多い時期と重なることから、嗅覚受容体遺伝子の発現が摂食量と関連があることが推測される。そこで、嗅覚関連遺伝子を1齢から3齢までの全ての幼虫期間で強制発現し、幼虫期間を通して積極的に摂食するヒロズキンバエを作出する。 細菌性摂食行動を促進させたヒロズキンバエは、体内に細菌を多く取り込むため弱体化する可能性がある。そこで、摂食行動を促進させると同時に、腸管内で抗菌ペプチドを強制発現させることにより、細菌を積極的に消化、殺菌するヒロズキンバエを作出する。ヒロズキンバエの抗菌ペプチドとして近年報告されたルシフェンシン、および他昆虫で同定されている抗菌ペプチド各種を恒常的に発現するヒロズキンバエの作出を試みる。 さらに、これらの作成した遺伝子組換えヒロズキンバエについて、ハエの行動、摂食ターゲットの選択、摂食量の評価をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、主にヒロズキンバエ複数系統の確立、また受精卵への微量注入技術の確立を中心に研究を進めた。ヒロズキンバエ遺伝子改変のための微量注入は、世界的に例が少なく、その技術確立に予想外の時間を要した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、遺伝子改変マゴットおよび遺伝子組換えマゴットの作出を計画している。Cas9コンストラクトの作成、ガイドRNA合成、各遺伝子の強制発現コンストラクトの作成など、多岐にわたる分子生物学実験が不可欠であり、そのためのPCR反応、cDNA合成、シーケンスなどの一般的分子生物学実験用試薬として計上する。また目的のマゴット作出後には、多数の個体維持・管理が必要となる。これらの昆虫飼育にあたり、飼育用ケージ、プラスチック製品、および飼料が必要であり、この飼育費用を計上する。
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