マゴットセラピー(Maggot Debridement Therapy: MDT)とは、ヒロズキンバエ幼虫(マゴット)が患者の壊死組織だけを摂食する性質を利用し、人体の難治性創傷を治療する方法である。マゴットセラピーの大きな特徴として、①壊死組織の除去、②殺菌、③肉芽組織増生の促進、が挙げられる。本研究では、適用範囲が広く短期間で高い効果を上げるマゴットセラピー開発に向け、デブリードマン能力が高い系統の確立および、非蛹化により機能性を向上させたマゴットの確立を実施した。本年度はまず、ヒト組織を用いてデブリードマン能力の評価系を確立した。マゴットセラピーの効果は、マゴットのヒト組織摂食能力に依存すると考えられる。そこで、孵化直後のマゴットに手術廃棄組織を与えて飼育し、その重量の推移を測定した。幼虫は毎日重量を測定し、蛹の重量、羽化直後の成虫の重量を測定した。その結果、ヒト皮膚廃棄組織摂食群では、通常飼料摂食群と比較して体重の低下が見られたが、成虫まで発育することを明らかにした。つまり、マゴットが実際に壊死したヒト皮膚組織を摂食することを初めて示し、マゴットのデブリードマン能力の評価系を構築した。さらに、幼虫の蛹化に不可欠であるエクジステロイドを阻害することにより、マゴットの蛹化の抑制をおこなった。真菌由来の酵素であるEcdysteroid-22-oxidase (E22O)を幼虫に注入し、その発育を観察した。その結果、コントロール群の幼虫はほぼ全て蛹化したのに対し、E22O処理群では蛹化率は著しく低下した。つまり、エクジステロイドをコントロールすることにより、蛹化しない医療用マゴットを開発できる可能性が示された。このような付加価値の高いマゴットの確立は、患者のQOLを高め、また院内の環境衛生面においても、MDTの普及に寄与するものと期待される。
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