本研究課題は、DNA修復系の機能不全によるミューテーター株を熱帯熱マラリア原虫において作製して詳細なゲノム解析を行うとともに、それをマラリア研究の新たなツールとして突然変異体創出システムに利用することを目的としている。本年度は熱帯熱マラリア原虫3D7株においてCRISPR/Casシステムにより作製したミスマッチ修復タンパク質MSH2-1の変異体(3D7-Mut)における突然変異率の上昇の程度を明らかにするため実験を行った。 まず、3D7-Mutと親株の3D7-WTについて限外希釈によるクローニングを行った後に、in vitroの培養系での継代を繰り返してゲノムに変異を蓄積させた。継代ラインは3D7-WTと3D7-Mutについてそれぞれ独立した6反復を設けた。0世代目の原虫と約200日間継代を行った原虫からそれぞれDNAを抽出し、Illumina HiSeq4000で全ゲノムシーケンス解析を行った。200日間継代した原虫において検出された変異から0世代目原虫において検出された変異を差し引くことで継代の過程で蓄積した変異(塩基置換、挿入・欠失、ゲノム構造変異)を同定し、3D7-WTと3D7-Mut間で比較した。3D7-WTでは挿入・欠失が全く検出されなかったが3D7-Mutでは平均1.7個検出されマイクロサテライトの不安定化が生じていると考えられた。一方で、塩基置換については3D7-WTと3D7-Mut間で差は見られなかった。また、染色体末端のサブテロメア領域における相同性組換えなどのゲノム構造変異が3D7-WTで平均0.8個、3D7-Mutでは平均2.8個検出され、3D7-Mutで増加傾向にあった。これらの結果から、熱帯熱マラリア原虫のMSH2-1は挿入・欠失やサブテロメア領域の相同性組換えの発生を抑制することで、ゲノム安定性の維持に関わっていると考えられた。
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