研究課題/領域番号 |
15K19092
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 幸司 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (70608322)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | H. suis / 胃MALTリンパ腫 / モノホスホリルリピドA / 胃上皮細胞 / TLR4-TRIFシグナリング |
研究実績の概要 |
Helicobacter suis (H. suis)は、マウス胃粘膜に感染すると胃粘膜B細胞から産生されたIFN-γにより100%の確率で胃MALTリンパ腫を発症させることが知られている。 本研究課題では、細菌感染症からインターフェロン誘導に重要な自然免疫系であるToll様受容体4(TLR4)シグナル伝達経路に着目し、H. suis感染からIFN-γを誘導させる新たな分子メカニズムを解明し、胃MALTリンパ腫発症における新規治療法を模索することを目的としている。平成27年度において、我々は、H. suis感染後の胃リンパ濾胞形成とTLR4シグナル伝達経路の活性化との関連性を明らかにするために、TLR4シグナル伝達に重要なアダプタータンパク質MyD88、TRIFを欠損したマウス、ならびに、野生型マウスを用いてH. suisの感染実験を行った。その結果、野生型、ならびに、MyD88欠損感染マウス胃粘膜では胃リンパ濾胞形成が多数認められていたが、TRIF欠損マウスの胃粘膜では、その数は有意に減少していることが明らかとなった。また、TLR4は、H. suis感染マウスの胃粘膜上皮組織において強い発現を示していたほか、細菌由来成分でるモノホスホリルリピドA(MPLA)を処理した胃上皮細胞において、TLR4シグナル伝達経路の活性化が認められ、1型インターフェロン産生が亢進していることが明らかとなった。今後、H. suis感染マウス上皮細胞で発現したTLR4シグナル伝達経路の活性化がどのようなメカニズムで胃粘膜B細胞からのIFN-γ産生を促進させ、胃リンパ濾胞形成を誘導するかの詳細を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の計画では、H. suis感染における胃MALTリンパ腫形成とTLR4シグナル伝達機構の役割、ならびに、細菌由来モノホスホリルリピドA(MPLA)で刺激後の胃上皮細胞からの1型インターフェロン産生誘導メカニズムの解明について検証を行った。 まず、H. suis感染後の胃リンパ濾胞形成とTLR4シグナル伝達経路の活性化との関連性を明らかにするために、MyD88、ならびに、TRIF欠損マウスにH. suisを感染させたところ、TRIF欠損マウス胃粘膜にて胃リンパ濾胞形成が抑制され、TLR4-TRIFシグナル伝達経路がH. suis感染後の胃リンパ濾胞形成に重要であることが示唆された。また、H. suis感染マウス胃上皮細胞においてTLR4の活性化が認められたほか、細菌成分であるMPLAを処理した胃上皮細胞において、TLR4シグナル伝達経路の活性化が認められた。これらの研究結果より、H. suisのもつMPLAが胃上皮組織におけるTLR4-TRIFシグナル伝達経路を活性化させることで、胃リンパ濾胞形成に寄与していることが示唆され、平成27年度の計画で予想していた研究成果が得られたものと考えられる。また、これらの研究成果は、次年度予定している研究計画の発展に密接に関連していることからも、本年度は、当初の目的を達成しながら、おおむね順調に進展してきているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果で、H. suis感染後の胃リンパ濾胞形成は、胃上皮組織におけるTLR4-TRIFシグナル伝達経路の活性化が重要であることを示した。本年度は、胃上皮組織におけるTLR4-TRIFシグナル伝達経路の活性化がどのようなメカニズムで胃粘膜B細胞からのIFN-γの産生に寄与し、かつ、胃リンパ濾胞形成を誘導するのかを以下の項目について詳細に検証する。 ① H. suis感染マウス胃粘膜に浸潤したB細胞上の遺伝子発現の解析を行う。 具体的には、非感染野生型マウス、ならびに、H. suis野生型感染マウスから胃を摘出し、感染胃粘膜に浸潤したB細胞をセルソーターにて精製する。精製後、細胞からRNA抽出を行い、1型インターフェロン受容体、ならびに、IFN-γの発現について検証予定である。 ② 1型インターフェロン発現上昇と胃粘膜B細胞との相互作用におけるIFN-γ活性化を検証する。 具体的には、リンパ腫由来B細胞株を用いて、組換え1型インターフェロンで刺激実験を行い、IFN-γ遺伝子、ならびに、その他関連遺伝子の発現を定量的PCR法で、また、培養上清中に産生されるIFN-γをELISA法にて検出予定である。 今後、H. suis感染後の胃MALTリンパ腫形成メカニズムの詳細を明らかにし、学会発表、ならびに、論文発表にて成果を公表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に購入予定であった試薬が国内在庫がなく輸入扱いになり、今年度中に試薬の確保が出来なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
H. suis感染マウス胃粘膜に浸潤したB細胞上の遺伝子発現解析、ならびに、1型インターフェロン発現上昇と胃粘膜B細胞との相互作用におけるIFN-γ活性化機構の解明に関する試薬購入に使用予定である。
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