研究実績の概要 |
Vibrio alginolyticus の3つのCsr調節RNA(CsrB, C, D)は、2成分制御系レスポンスレギュレーターVarAにより発現制御される。本研究では3つの調節RNAのうち1つはVarAにより正に、2つが負に制御される非冗長な新規メカニズムを明らかにすることを目指している。 昨年度までの研究で、VarAとCsrB, C, Dそれぞれのプロモーター領域のDNA断片の親和性には、ほとんど差が認められなかったことから、プロモーター領域それ自体の差異で非冗長な発現が起こるわけではないと考えられた。一方、細菌の転写調節機構においてプロモーター領域のみならずORF領域の配列までもが転写活性に影響を及ぼす例がいくつか知られている。そこで、CsrB, C, Dのプロモーター領域から転写集結の直前までをLacZレポータープラスミドに挿入し、その活性をCsrB, C, D間で比較した。その結果プロモーター領域のみを挿入した場合と転写終結までを挿入した場合のいずれでもCsrB, C, Dの間にLacZ活性の差は認められなかった。 これまで転写メカニズムを中心に研究を行ってきたが、非冗長メカニズムにつながるCsrB,C, D間の差異は見いだせなかった。そこでCsrB, C, Dが非冗長な転写後調節を受けている可能性について検討することとした。それぞれの転写後のRNA安定性を見積るため、リファンピシン・チェイス実験を行った。少なくとも本研究で行った条件では、リファンピシン添加後、CsrB, C, DのいずれのRNAにおいてもほとんど分解がみられず非常に安定であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
そもそもCsrB調節RNA分子は、翻訳阻害タンパクであるCsrAを吸着することで翻訳を促進する。これまでに他の細菌で、CsrAそれ自体がCsrB調節RNAに結合することで、RNA分解から保護し、結果として安定性に寄与するという報告がある。研究代表者は、CsrB, C, DそれぞれがCsrAタンパクに対して異なる親和性を持つために、RNA分解酵素からの攻撃に対し感受性が異なるのではないかと作業仮説を立てた。次年度では、CsrB, C, Dそれぞれをin vitro転写で合成し、リコンビナントCsrAとの親和性をRNAゲルシフトアッセイにより測定することで親和性の違いを検討することとする。 多重破壊株を用いたフェノタイプ解析は、CsrB, C, Dの細胞内存在量が非冗長に調節されていることの生物学的意義を考察する上で重要であると考えられる。当初の計画より多少の遅れは生じたものの、CsrB, C, D遺伝子の多重破壊株による、細胞傷害活性の測定を行うため培養細胞による感染系を立ち上げ、測定法、MOI等の条件を既に検討し終わっている。次年度中には、細胞傷害活性へのCsrB, C, Dそれぞれの寄与を明らかにしていく予定である。
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